農家の土壌汚染低減の対策について

 

〜2013年の高崎市民測定所クラシルにおける実態と対策〜

原発事故による放射能汚染が農業に与えた被害は、広く東日本全体に広がりました。

土壌そのものの汚染をなんとか取り除く、果樹などにおいては樹皮を剥ぐなどして汚染を取り除くなどの少しでも作物に含まれる放射能を低減させたいという必死の取り組みは事故直後から多くの農家でなされました。

その後も国や各都道府県の農業研究機関・また民間企業などが中心となり、現在も農地における農作物への放射性物質が取り込まれないようにする対策の研究は続き、それぞれの地域の農家たちがそれらの研究をもとに自らの農場での対策・研究を続けています。

このページでは、1つの参考事例として、みんなのデータサイト参加測定室の1つである「高崎市民測定所クラシル」のの取り組みを紹介します。これは、「土と健康」2013年7月号に掲載された報告です。
このページの最後に掲載された原稿のPDFを貼付します。

土壌汚染の数値と、農作物への汚染は必ずしも正比例するものではなく、生産者の努力により低減が可能なことの1つの具体的な成果としてご覧ください(一方、山菜や野生キノコ、野生生物のイノシシ、シカなど、人の手の入らない土地の生き物は、その土地の汚染との相関関係がある程度みられます)。

放射能汚染の実態とその対策
                       丹羽牧人

 

「農園みずき」彩菜主宰。十数年前、脱サラして群馬県高崎市倉渕町で就農。
レタス、トマト、キュウリなどの野菜を栽培。有機農法を核とした「生き物農業」を目指す。
NPO鷹の森たかさき事務局長、高崎市民測定所クラシル運営委員、(公)日本自然保護協会、
高崎市有機農業者連絡協議会会員

私達、高崎市有機農業者連絡協議会は2011年3月1日に情報交換・技術交流を目的に発足したが、その直後に放射能汚染という問題に直面することになった。
そして、技術交流イベントの開催、地元農業祭りへの出店などの計画とともに、東電への要望書の提出なども行うことになった。今年も去る6月6日には放射能対策をテーマに春季 技術交流会を行い、私の畑もその会場のひとつとなった。今回は紙面をお借りして、そのときにお話しした内容をご紹介したいと思う。

始まりは自主検査

地元の汚染は福島に比べればずいぶん淡く、県内でも北部に比べれば幸せな状況だったが、自らの農地も無視できない被ばくをしたことは事実で、その不運を嘆きたい気持ちも正直あった(図 上 圃場位置)。
しかし、放射性物質の汚染は濃淡あれども全国に及んでいて、どこから危険でどこまで安全という境目はないこと、当地よりもひどい汚染地帯で農家として格闘している方々がいること、移住してから十数年という、生産者としてまた家族としての歴史があることを考えれば、この地を離れる決断はありえなかった。

しかし、私達の土地と繋がっているお客さんに対して作り手としての責任を全うする必要がある。
行政からの情報は少なすぎたので、まずは実態を把握するために、栃木県佐野市の(株)環境ラボという会社が提供してくれた安価な測定サービスを利用して、自主検査をできるだけたくさん行うことに決めた。
農産物、農地土壌、堆肥やモミガラ等の資材の検査を、仲間を募って数をこなすことで、注意すべきポイントや地域の傾向が見えてくると考えたのだ。

地域においては、安全・安心を旨としてきた有機農業者でも、検査に対する抵抗感は強い。
もし、芳しくない検査結果が出てしまって、それが明らかになれば、世間からその生産者はもちろん、地域全体がいわれなき疑いをかけられないとも限らない。その心配は私にもわかる。
多くの人は「あんな検査なんかして、もし出ちゃったらまずいだろ」と思っていたかもしれない。

しかし、相手は、見えない・におわない・味がしない放射能である。作物づくりの現場で、それがどんな状況かを把握するのは 生産者の責任であり、その責任に背を向けているとすれば、いわゆる風評被害に本質的に反論できない、と私は考えていた。

その後、さらに測定の頻度をあげる必要性を感じていたところへ、仲間と市民測定所を立ち上げる話が持ち上がり、多数の市民の寄付をいただくことで、2012年4月に高崎市民測定所クラシルを立ち上げることができたのは実にありがたいことだった。 市民測定所は開設以降、市内に留まらず、県内を中心に広く利用されている。

汚染はとてもバラついている

当初の外注測定では、2011年9月~翌4月にかけて生産者9名のものを約100検体行い、私達の地域は土壌で200Bq/㎏~400Bq/㎏、資材では100Bq/㎏程度の汚染レベルのものが多いことが分かった。

一方、作物・畜産物(42検体)はそのほとんどが不検出(検出下限 25Bq/㎏)。
検出例は2例で、ひとつは干しシイタケ約700Bq/㎏(Cs-137・134合算)、もう一つルッコラ26Bq/㎏(Cs-137のみ)は私の畑から2011年 11 月に収穫したもの。
つまり私は「地雷」を見事に踏んでしまったわけである。

ルッコラを栽培した約800㎡のちいさな畑(写真 上)では、少しずつ時期をずらしてルッコラほか計5種の軟弱野菜を作付した畑だった。すべての品目について1サンプルずつ検査したのだが、他の品目はすべて不検出。
26Bq/㎏は当時の基準値500Bq/㎏を大きく下回った値だったが、顧客の自然食品チェーン店からは、他の品目も含め一時的だが全面出荷停止の措置を受けることとなった。
しかしその後再び、同じ畑のルッコラを計測し不検出だったため、なんとか出荷を再開することができた。

なぜルッコラ1サンプルだけから検出されたのか。考えられる理由のひとつは、一枚の畑の中でもセシウム濃度が異なっているのではないか、ということで、その後、畑の5か所から 土壌を採取して高崎市民測定所でセシウム濃度とミネラル濃度を計測してみた(図前ページ 測定位置、図右 圃場内のセシウム 濃度、圃場内のミネラル3要素)。

結果、最大値/最小値の値はセシウム合計で約1・5、ミネラル3種合計で約1・8であることが分かった。
この開きは水の流れや腐植含量のばらつきが原因と考えられると思う。ちなみにセシウム濃度が高いのは、傾斜地である畑の上流側の山林や生活道路から土手を伝わって水が流れ込みやすい場所と、下流側の少しくぼんでいて水が集まりやすい場所である。

セシウム濃度だけでなく、ミネラル、特にカリウム濃度はセシウム吸収に深く関与しているといわれている。
作物中セシウム濃度のバラツキが生じるために十分な土壌中のバラツキが、セシウムとミネラル両者にあることがわかると思う。

もうひとつ、高崎市民測定所に持ち込まれた玄米の例をご紹介したい。

無肥料栽培、一部不耕起の4枚の水田から収穫された2011年産の玄米から、セシウム2種合計で 81 ・6~148Bq/㎏が検出された(図右 水田配置・測定結果図)。2サンプルの乾土セシウムを測定して、移行係数を計算すると、0・42 、0・ 24 というびっくりするような値である。一方、隣接する水田の玄米は、 まったく同じ水を利用する下流側で20 ・6Bq/㎏、一部用水を共有する上流側で不検出または 46 ・6Bq/㎏だった。

土壌においては、畑でもバラつきがあるので、水の影響がけた違いに強い水田でもバラつきがあって当然だ。
田んぼ一枚一枚違いがあるし、一枚の中でも測ってみれば水口と水尻で違うことはふつうである。
このサンプルで高い移行係数が出たのは、水の汚染、耕起状態と腐植やミネラルの含量が複合的に関係していると測定所では見ている。

以上の事例から、地域で行政が何か所か測っているからウチも大丈夫、とはとても言えない状況であることがわかる。
また、土壌のセシウム濃度が低いからと言って作物も低いとは限らない。

意外な落とし穴

今年1月、郡山市のコマツナから150Bq/㎏のセシウムが検出されたという。
コマツナの畑で使われていた防虫や保温のための布から2700Bq/㎏のセシウムが検出され、この布に高濃度のセシウムがたまりコマツナについた可能性が高いとみられているらしい。
布は去年の春以降、屋外の雨水がたまりやすい場所に置かれていて先月下旬から畑で使い始めたとのこと。
この布はおそらく私もよく使っている不織布のべたがけ資材のことだと思う(写真①)。

福島第一原発の事故当時、私のハウス一棟には遮光ネットをかぶせていて、中でぼかし肥料の製作を行っていた。
あるとき、そのハウスの中で線量を測定してみると、地際よりも地上1mの方が高い値が出た。
遮光ネットの網目にセシウムが付着していたのである。そこで、これを撤去して倉庫に使っているハウスの脇に丸めて置き(写真②)、このネット上で線量を測ると1・688 mSvだった。周辺はその時0・2mSv程度である。ちなみに、ハウスに展開してあった時は、ネットの直上で約0・3mSvであった。これはネットを丸めることによって、ネット表面あたりのセシウム量が増えた、ということだと思う。ネットが何Bq/㎏かわからないが、もしこれが不織布でべたがけに使っていたとしたら、あるいはこのネットの下流側に不織布を保管していたら、私はとても大きな「地雷」を踏んでいたかもしれない。

こうしたことを防ぐためには、難しい測定器はいらない、まるめることによって、線量が上がることがわかれば、簡単な線量計で十分である。まるめて線量が周辺よりも上がらなければ(写真③)、使用OKだろう。

また、福島からは汚れた籾すり ③まるめる ②遮光ネット ①べたがけ 17機での交差汚染が報告されてもいる。
群馬といえども気は抜けないだろうと私は考えている。

対策の効果あり

最後に前出の水田の2012年作をご紹介したい。この水田の生産者の方は耕作をあきらめなかった。
施した対策は以下の4点。

1.元肥として、鶏糞堆肥(170㎏/10a)および粒状草木カリ (K:30% 20㎏/10a)を投入し、耕起。
2.追肥として粒状草木カリの投入( 20㎏/10a×2回)。
3.昨年利用していた森林からの沢水の利用をやめた。
4.各田圃の水口にセシウム吸着材としてゼオライトを設置した。

そして今作のうるちの玄米を、天日干しで3日間乾燥後と 17日間乾燥後の2回検査した結果、Cs-137、Cs-134ともすべて「不検出」(検出下限は Cs-137、Cs-134各5~8Bq/㎏)だった。

セシウムは水や風に乗って動いている。だから昨年大丈夫だったから今年も大丈夫だとは限らない。
しかし、対策をとれば効果は出るのだ。専門家の試算によれば、福島第一原発1~3号機から大気中に放出された放射性セシウムの総量は5㎏だという。
たとえば、それを10aあたり数十キロとか百キロクラスが標準であるカリウムで抑え込むのはいかにもできそうなことだ。
だから、もっと多くの人に調べて、行動してもらいたい。

(「土と健康」2013年7月号に掲載)