みんなのデータサイトによるステートメント
みんなのデータサイトとは
みんなのデータサイトは、現在全国31の市民放射能測定室が参加しているネットワーク型の団体です。
2011年の東京電力福島第一原発事故後、汚染の実態を知りたいと測定活動を開始した各地の測定室が集っています。
それぞれが積み上げてきた放射能測定データをひとつのプラットフォームに集約し、より正確な情報をわかりやすく提供することを目的として、WEB上に「みんなのデータサイト」を2013年9月にオープンしました。2019年7月現在、約16,000件の食品測定データ、3,400件を超す土壌測定データ、そして1,700件の環境試料データを公開しています。
みんなのデータサイトに参加する測定室は、私たちが独自に開発し実施している基準物質による精度検定を定期的に実施しています。
運営は、参加している測定室のメンバーと事務局とで構成する運営委員会によって行われています。
政治的、社会的、宗教的に独立した非営利の任意団体です。
みんなのデータサイトの機能
みんなのデータサイトには以下の4つの主要な機能(取り組み)があります。
1)参加測定室の放射能測定データを収集・公開する。
2)参加測定室の測定技術、知見の向上を図る。
3)収集されたデータにもとづいて、独自の調査研究、解析を行なう。
4)調査研究結果に基づいて、放射能汚染問題の解決、対策に向けて見解を発表する。
みんなのデータサイトの歩み
2011年3月 | 東京電力福島第一原発事故が起き、放射性物質が環境中に大量に放出されました。 子どもの健康に不安を覚えた多くの市民が、 原発事故後、各地に立ち上がった市民放射能測定室にたくさんの市民が食品の測定を依頼しました。 |
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2012年9月 | 全国の測定室が測定したデータを同じフォーマットで一元的に集約・ 公開することを目的に、市民測定室が集まって、みんなのデータサイトはスタートしました。 |
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2013年3月 | 食品の測定データがまずデータベース化され、ウェブサイトで公開されました。 |
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2014年10月 | 「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」(以下、土壌プロジェクト)を構想し、 10月から約3年間、予算もほとんど無い中、資金調達と採取活動の両輪で 進めていきました。(解説1) |
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2017年12月 | 国が行わない土壌の詳細なベクレル測定を市民が行った功績を認められ、 『日隅一雄・情報流通促進基金 大賞』を受賞。 |
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2018年11月 | 「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」の調査結果及びこれまでの 食品測定データの解析結果に放射能の基礎知識を加えた書籍を出版する ため、「みんなのデータサイト出版」を設立。 |
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2018年11月 | 『図説17都県 放射能測定マップ+読み解き集』を自費出版。 2019年7月までに1万6000冊を発行。 |
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2019年7月 | 同書を市民の力で発行した功績を認められ、 『日本ジャーナリスト会議 JCJ賞』を受賞。 |
*(解説)の内容は、このページの一番下にまとめて掲載しています。
これまでに収集したデータに基づく見解
【食品測定:食品の規制基準値の問題】
食品については、測定の結果、事故直後の放射性降下物の付着による高濃度の汚染がありました。
その後は、セシウムが粘土質の土壌に吸着されやすいことで、作物への移行は低めの傾向があります。
一方で、野生のキノコや山菜、イノシシや淡水魚などの汚染は高い傾向があります。
事故の起きた2011年当初、国は1キログラムあたり500ベクレルを暫定基準とし、その後2012年からは1キログラムあたり100ベクレルとしました。
しかし事故前も、今でも、原子炉等規制法に定められた黄色いドラム缶に保管すべき「低レベル放射性廃棄物」の基準値は1キログラムあたり100ベクレルです。
それと同等の数値が食品の基準として採用されている事を憂慮しています。
【土壌汚染調査と避難基準:チェルノブイリと福島から見えてきたもの】
日本の放射能汚染調査においては、福島県内(5センチメートルの深さ)、各地方の農地(15センチメートルの深さ)での土壌測定が行われました。
しかし広く汚染された東日本全域については、地上約300メートルで航空機からスクリーニング測定し、地上1メートルの空間放射線量を推計、その推計値から地上表面の放射性物質の沈着量の推計をするなどにとどまっています。
残念ながら国の責任において詳細に土壌汚染の調査をすることはありませんでした。
そこで正確な土壌汚染の状況を把握するには、直接土壌をベクレルで測定する必要があると判断し、「国がやらないなら自分たちでやろう!」と、自分たちが知りたい場所を直接ベクレル測定する土壌プロジェクトをスタートさせました。
1986年に起きたチェルノブイリ事故では、高濃度汚染を受けたウクライナとベラルーシが、国家予算で全国の土壌測定を行いました。
そのデータは、事故後5年経って制定された「チェルノブイリ法」の補償判断基準などに採用されています。
一方日本では、事故後6年が経過し改めて補償対象を認定していく法律を制定するどころか、逆に、2017年3月には住宅手当打ち切りなどの措置が強硬に進められました。
チェルノブイリ法では、年間実効線量のシーベルトと土壌中放射能存在量のベクレル(当時は平方キロメートルあたりのCi=キュリー)の2つの単位で補償範囲が制定されましたが、日本ではベクレルでの基準はなく年間実効線量のみで被ばく限度20ミリシーベルトが設定され、非人道的にも、現在この基準に基づいて強引な帰還政策が進められています。
それは通常の公衆被ばく線量限度年間1ミリシーベルトの20倍、放射線作業従事者に労災認定がおり得る年間5ミリシーベルトの4倍もの線量にあたります。(解説2)
「みんなのデータサイト」が積み上げて来た土壌プロジェクトのセシウム137のデータから、人口が密集した日本にチェルノブイリに匹敵する高濃度の放射能汚染地帯ができてしまったことが明らかになりました。
また、チェルノブイリ法における「避難(移住)の権利ゾーン」から「避難(移住)義務ゾーン」に相当しても、なんの補償も避難勧告もない地域もあることが明らかになりました。
私たちが作成した「100年マップ」の試算でも、これから数十年経っても放射能汚染が減衰しきらないことが見て取れます。(解説3)
*(解説)の内容は、このページの一番下にまとめて掲載しています。
【みんなのデータサイトはこう考えます】
私たちは、日本政府が、空間放射線量・実効線量(シーベルト)のみでなく、「ベクレル測定」による土壌汚染状況もあわせて「避難」「補償」のゾーン区分を行い、適正な権利を保障することを求めます。
年間20ミリシーベルト基準の帰還政策を見直し、事故前の一般人への基準値年間1ミリシーベルトに戻すことを求めます。(解説4)
みんなのデータサイトの今後の活動
「みんなのデータサイト」は、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の実態を測定データによって可視化し、放射能汚染の記録を後世に遺します。またこのデータを必要とする方々に届くよう情報発信を続けます。
子どもたちの未来を守るため測定活動を継続し、二度とこのような事故を起こさないよう社会に警鐘を鳴らしていきます。
以上
解説
(解説1)
土壌プロジェクトは、北は青森から、南は長野・静岡まで、東日本17都県という広大な範囲を採取区域として実施しました。統一した手法で土壌を3,000件以上採取し、放射能をベクレル単位で測定してきた取り組みです。
文部科学省やチェルノブイリの調査結果とも比較できるよう、地表から5センチメートルまでの深さの土壌を採取するなど標準の採取法を確立しました。
採取は、極端に汚染が高いマイクロホットスポットと、除染や清掃などが行なわれて汚染が低くなった場所を避けました。
事故当時の汚染を極力保持している場所を選んで採取・測定し、各地の一般的な汚染度をできるだけ正確にマップ化しています。
東日本土壌ベクレル測定プロジェクトのマップ
(解説2)
汚染状況には様々な要素があるので、一概に比較するのは難しい面がありますが、チェルノブイリ法(セシウム137基準)に照らして比較すると、みんなのデータサイト(セシウム137のみ、2016年基準) のマップでオレンジのポイント(約2,800Bq/kg以上)は避難(移住)の権利が与えられる範囲、赤(約8,500Bq/kg以上)であれば避難(移住)が勧告される範囲です。
日本では、年20ミリシーベルトという非常に高い基準しか定められていないため、このような汚染でも避難勧告はなく、そういった場所からの「移住」や「保養」は自主的な取り組みとされてしまいました。
このような状況に対して、小さくても風穴をあけるためにも、しっかりとした広範囲な土壌測定を進める必要があり、これまで力を尽くしてきました。
みんなのデータサイト作成「チェルノブイリ法のゾーン区分と日本の比較表」をぜひご参照ください。
(解説3)
事故当時放出されたセシウム134と137は約1:1 これを合わせて200%として試算すると、2019年3月現在、半減期2年のセシウム134が当初放出量の約6.8%まで減衰、しかし、半減期30年のセシウム137は約83.2%残っています。このため、放射性セシウム合算値(セシウム134+セシウム137)は事故直後に比べて、まだ90%残存していることになります。
事故から30年経っても4分の1は残ることになります。
空間線量や、航空機モニタリングでは決して見つかることがないホットスポットも各地に点在しており、無視できるものでなく、注意喚起・除染への働きかけを続ける必要があります。
放射能は目に見えず匂いも味もないからこそ、汚染があることを忘れずに対策を続けねばなりません。
東日本土壌ベクレル測定プロジェクトで測定した各地の放射性セシウム実測値を、減衰補正計算して地図に表した、減衰推計100年マップ(2011年〜2111年)
(2011年は放射性セシウム134・137の合算値、2021年から2111年まではセシウム137のみの値で計算しています)
(解説4)
ひとたび事故が起きれば、空間線量、土壌中放射性物質をすべて事故前の状況に戻すことは不可能です。測定データの結果をみると、未だに過去の大気圏内核実験の影響、チェルノブイリ原発事故の影響が読み取れます。
人類初の3基同時のメルトダウンの原子力過酷事故に対し、汚染が既に無くなったかのようなマスコミ報道、あたかも事故は収束したかのような政府や自治体の対応がこの国で当たり前に行なわれていることを懸念します。
広島・長崎そして今回の福島の事故を経験した私達は、生命・生存を脅かす「核」とは共存できないと考えます。