灰・肥料・井戸水など

セシウム134の過剰評価の補正について

福島原発事故で大気中に放出されたとき、放射性セシウム134と放射性セシウム137の割合は約1:1でした。 その後、半減期が約2年のセシウム134は2年で半分、4年で1/4、6年後で1/8、8年後では1/16にまで減少します。一方、半減期が約30年あるセシウム137は、8年後の2019年では依然として80%以上が存在しています。

このように、2011年3月を起点として、測定年月である程度その2つの放射能核種の比率は減衰補正計算で割り出すことができます。
下の図では、セシウム134とセシウム137が1:1で放出されたことから、2011年3月の2つの放射性核種の合計を2としてその減り方を視覚的に表したグラフです。


(実際には、原発事故においては放射性セシウム以外にも数十の放射性物質が放出されていますが、ここでは放射性セシウムについてのみ、解説しています)



さて、本来はセシウム134のほうが早く減るので、測定値としてはセシウム137よりも少ないはずなのですが、実際の測定データの中で、時々セシウム134の数値が、セシウム137の値よりも「高く」測定されてしまうケースがあります。
一種の誤検出です。

これは、多くの市民測定室で測定に利用しているNaIシンチレーション式検出器では、「分解能」がゲルマニウム半導体検出器と比べて劣り、別核種で近い領域のγ(ガンマ)線ピークを見分けることが非常に困難であるために起こる現象です。
セシウム134(もしくはセシウム137)と、ビスマス214(Bi-214)の領域が重なるため、測定器がその分多く数値を見積もって測定結果を弾き出すのです。

食品には、ビスマス214や鉛などの近い領域の核種が含まれることがほとんどないため、こういった課題はありませんが、土中、水中、植物、木材、建材等の生活環境中のいろいろの物質にはもともと様々な天然の核種が存在するため、そうした核種が多く含まれる検体の場合にこのような問題が起こることがあります。 このような誤検出データについては、各測定室でチェックの上、さらに事務局でもチェックを行なったデータを入力するよう心がけています。 そのうえで、測定結果の表示では、上記のような傾向が見られるデータは、「補正済み検体」と表記し、値を補正してあります。

万が一、比率に疑問があるなど、チェック済みと思われるデータを見つけた場合は、事務局までご連絡いただけますと幸いです。

(参考)NaIシンチレーターで土壌や環境試料を極力正確に測るための取り組み

*ここでは、土壌や環境試料(灰など)を測定する際に、より正確に測定をし記録を残すために2016年に行った、検証プロジェクト、また正確な測定を行うために みんなのデータサイトが取り組んでいる内容をご紹介します。
市民測定室であっても、これらの試みを実施することで、正確な測定を行い記録することが可能になっています。
ぜひご参考になさってください。

1. NaIシンチレーターの測定精度を高めるためのプロジェクト(低濃度検体・高濃度少量検体による測定プロジェクト)

「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」では、ほとんど放射性物質が落ちていない場所から、避難の対象となるような汚染の高い場所まで、様々な場所の採取測定を行なっています。 このため、測定においては極端に低いセシウム値の検体と、極端に高いセシウム値の検体双方を一定程度の精度で測定できていることを確認することが必要です。

みんなのデータサイトでは、2016年に高木仁三郎市民科学基金から助成金を頂き、「NaIシンチレーターによる土壌中放射性セシウム濃度測定の精度向上と検証のための取り組み」として「低濃度・高濃度プロジェクト」を実施しました。

このプロジェクトでは、自分達で非常に放射性セシウム濃度の低い土壌検体と、セシウム濃度が高い土壌検体をつくることから取り組み、それを測定器のメーカーごと・ソフトごとに決まった容器に充填し、各測定室で測定を行いました。そして測定値に差が出るかを確かめ、測定器特性を割り出し、検証を行なって補正係数が必要となるか、必要であればどのような補正となるかを導き出しました。

⇒詳細な内容・報告書はこちら
(NaIシンチレーターによる土壌中放射性セシウム濃度の精度向上と検証のための取り組み.PDF)

この結果に基づき、数値の補正の対象になるものを精査し、現在の数値は補正済みのものです。

2. 半値幅を確認する

多くの測定室が2012年に測定器を入手して立ち上がり、活動が複数年に渡って経過したことにより、経年での精度チェックも必要となります。 そのため2017年に「半値幅確認プロジェクト」を実施しました。

半値幅測定とは、ガンマ線測定器の性能を検査する上で、最も基本的な検査の1つです。
放射性のコイン線源を測定し、測定時のピークの形(鋭さ・細さ)を調べることで、その検出器が目的のピークと他のピークとをどれほどきちんと分ける能力(分解能)があるのかを調べることができます。つまりピークの形状が鋭ければ鋭いほど隣のピークとぶつかること無く、独立のピークとして計算することができるためです。

ピークの鋭さは、検出器の経年劣化に伴って少しずつ緩み、幅広になっていきます。そのため、購入当時は良かったとしても、経年劣化した検出器を用いた測定の場合、他の核種のピークを目的のピークと間違えて検出してしまうことがあるのです。 特に、前述のセシウム134における天然核種(ビスマス214)との取り違えなどは時として大きな問題になりかねないため、このプロジェクトでも測定器の精度確認を実施しています。  

*2017年の調査においては、目立って劣化を示すデータはどの測定器からも見つかりませんでした。