NaIシンチレーション測定器での土壌測定する際のセシウム定量検証
一般に使用されている代表的なγ線測定器には、ゲルマニウム半導体検出器(Ge)とNaIシンチレーション検出器(NaI)があります。
前者は高い「エネルギー分解能」(γ線エネルギーを区別する能力)を持ち、同時に共存するγ線を細かく区別して計測できます。
Geは機器自体が高価(1,000万円近くします)で維持費もかかる(液体窒素で常時冷やす必要があり、月額数万円以上)ため、市民測定室での導入はごく一部です。
一方、NaIシンチレーション検出器(NaI)はGeと比較すると価格も低く(それでも数百万円します)、検出効率(放射線の検出数)も高いため大部分の市民測定室で使用されていますが、「エネルギー分解能」が低いという弱点があります。このため対象核種(Cs-137, Cs-134, I-131など)のγ線と、共存する他のγ線を明確に区別することができないという問題に直面します。特に対象核種のエネルギーに近いγ線を放出する天然核種を多量に含む土壌検体などの場合、含まれる放射性セシウムが低い場合に困難があります。
この傾向は、NaIの機種ごと、またソフトウェアにより差があることがわかってきました。
東日本土壌ベクレル測定プロジェクトの実施に際しては、測定器ごとの詳細な検証を行うサブプロジェクトを実施し、信頼できる数値になるよう確認・補正を行いました。
詳細は、高木基金の助成を受けて実施した「検証プロジェクト」の報告資料をご覧ください。
放射性セシウム定量へのウラン系列核種の妨害
土壌には天然の放射性核種(ウラン系列やトリウム系列など)が多く含まれています。
その中でもウラン系列のビスマス214(Bi-214)はNaIシンチレーション検出器で放射性セシウムを定量する際に厄介者となっています。
下図は、「ウラン系列核種」とその「代表的なγ線エネルギー」を表示しています。
ウランが何度も原子核崩壊をする際にα線、β線、γ線といった放射線を放出して、異なる元素に変異していきます。
それぞれのエネルギーが異なりますが、ビスマス214の「609keV」とセシウム134の「605keV」がとても近いことがわかります。
下図では、ウラン系列核種の妨害の有無によるγ線スペクトルを比較するために、「典型的なγ線スペクトル例」を示してあります。
天然核種の混入が生じにくい食品のγ線スペクトルは比較的シンプルです(図A)。
NaIの低い「エネルギー分解能」のためセシウム137(662keV)のピークとセシウム134(605keV)のピークは部分的に重なってしまいます。そのためセシウム137とセシウム134の定量にお互いが影響します。
セシウム134の場合は別のピーク(796keV)で解析すればセシウム137の干渉を回避可能ですが、1つしかピークを持たないセシウム137では影響を回避できません。
また、ウラン系列のビスマス214の影響が加算される土壌検体では、セシウムの定量値に多大な影響が現れます(図B)。
ビスマス214の「609keV」とセシウム134の「605keV」は、スペクトルの位置が近すぎて、NaIの能力ではどちらを検出したのか区別することはできません。
従って、土壌中に含まれるビスマス214(雨に含まれる核種)をセシウム134として誤検出してしまい、結果としてセシウム137の定量値にも影響を与えることがあります(機種の計算方式などによってその影響値は変わります)。
土壌検体中の放射性ヨウ素(I-131)を定量する際にも同様な誤検出が発生する傾向があります。
それは、放射性ヨウ素(I-131)のγ線エネルギー(365keV)とウラン系列の鉛214 (352keV)をNaIが充分に区別できないからです。
これまでの検証作業から、土壌中のウラン系列核種が放射性セシウムの定量値に影響が現れるのは、含まれる放射性セシウムの濃度が50ベクレル/kg以下の低い場合に概ね限られています。
従って、放射性セシウムで高濃度に汚染された土壌ではウラン系列核種の寄与は無視できる程小さいと結論しています。