森林の汚染
森林の汚染について、吉田聡氏(独立行政法人放射線医学総合研究所)の資料に、わかりやすい考察があります。この考察をもとに、一部、事務局で表現をわかりやすくアレンジして、以下説明をしていきます。
日本は国土の60%以上が森林
日本は国土の60%以上を森林が占めています。福島県に限れば71%が森林で覆われています。大気中に放出されて地表に沈着した放射性セシウムの大部分が森林に存在する状況です。森林には放射性セシウムが長期間残留する可能性があり、外部被ばくに寄与したり、林産物に長期にわたる影響が出ることが懸念されます。
セシウムは森林のどこにあるのか?
1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故では、事故後長期間、放射性セシウムは土壌の表層5㎝までにほぼとどまっており、深いところにはなかなか移動しにくいということがわかっています。 これは、放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物に吸着されやすい性質を持っており、一旦吸着(固定)されるとその場所から移動しにくくなるためです。 では、セシウムは土の中にしかないのでしょうか? 放射性セシウムは固定され動かない場合と、動きやすく植物に吸収されやすい場合とがあります。今後、時間と共にどのように変化していくのか、そのメカニズムを知っておく必要があります。
森林には放射性セシウムが長期間残留する可能性
以下は、「森林に沈着した放射性セシウムの長期的な動き」を図示したものです。
森林に入って来た放射性セシウムは、森林生態系の物質循環に伴ってダイナミックに移動します。
これは、「セシウム」が主要な栄養塩である「カリウム」と同じアルカリ元素で、性質が似ているために起こる現象です。
森林内には、元々放射性でない安定セシウムが存在し、沈着した後の放射性セシウムの動きは、元々存在するカリウムやセシウムと平衡状態になっていく(混ざっていく)過程に取り込まれます。
森林生態系の循環の中で、放射性セシウムは生物に利用されやすい形態を維持していきます。
その結果、森林のキノコや、植物中の放射性セシウムは比較的高濃度に維持される可能性が高くなってしまうのです。
ここまでの文章と図の出典:吉田聡(独立行政法人放射線医学総合研究所)
「原発事故による環境汚染と森林生態系への影響」: 「カタストロフィー巨大災害と森林 —復興と再生をめざして—」
講演要旨集 P3 (平成24年度独立行政法人森林総合研究所公開講演会 2012年10月11日開催)
森林の放射性物質の分布状況
ここからは、独立行政法人森林総合研究所の資料を使って、説明します。 森林と一口に言っても、植生は様々です。 常緑樹と落葉樹では、放射性セシウムの付着に大きな差があることがわかっています。
事故当時、常緑樹は落ちてきた放射性セシウムの多くが樹冠部の葉に付着し、残りが土壌へと沈着しました。 落葉樹は葉の生育時期だったため、ほとんどが落葉層(前年までの落ち葉が積もった土の表面)に蓄積していたと考えられます。
文部科学省の資料からも同じ結果が得られています。
これは、2011年8月8~12日に福島県安達郡大玉村の福島森林管理署内国有林にて、森林総合研究所が行なった森林における放射性物質の分布状態についての調査結果です。 ※参考値 調査時大玉村空間線量率 0.33μSv/h 事故直後は、落ち葉や葉や枝に放射性セシウムの大部分が存在することがわかります。
グラフは、図1で示した部位別等の放射性セシウム濃度に、単位面積当たりのそれぞれの重量を掛け合わせて、スギ林内全体における放射性セシウム量を算出し、林内の分布状況を示したものです。 常緑樹の特徴が出ています。
参考1、図1、図2出典:独立行政法人森林総合研究所
今、森林の放射性物質はどこに?
再度、吉田聡氏(独立行政法人放射線医学総合研究所)の資料に戻って解説します。 事故により直接葉に付着した放射性物質は、降水によって次第に地表へと洗い落とされていきます。また、落葉は、葉に付着したセシウムを伴って地面へと移動していきます。 スギなどの常緑樹の場合も、古い葉は落葉するので同様です。森林土壌表層の落ち葉は有機物であり、やがて土壌動物や微生物の活動によって分解されていきますが、その過程で、含まれていた放射性セシウムは微生物等に移行するか(水に)溶け出します。溶け出した放射性セシウムは、落ち葉層の下の土壌へと移行していきます。 土壌へ移行した放射性セシウムは、そのまま沈降してしまうのではなく、菌類等の微生物や植物などの働きにより、森林内に「動きながら」とどまる傾向があります。 例えば、樹木の根から吸われた放射性セシウムは、樹木の中を移動して葉に至り、落葉が始まるとまた森林土壌の最表層へ戻ることになります。このようなリサイクルの中で放射性セシウムは保持され、森林の外部には出にくい状態となっています。
野生のキノコと山菜に注意!
森林は林業の場であると同時に、燃料や堆肥、キノコや山菜等の供給源です。
森林の汚染は、これらの林産物を利用する生活や産業に大きな影響を与えています。 落ち葉層の分解が進むにつれて、今後、土壌から樹木に経根吸収される量が増える可能性があり、樹体内の放射性セシウム濃度は長期的に注視する必要があります。
福島第一原発事故の後、野生キノコに高い放射性セシウムが観測されています。
原木栽培キノコ等も食品の規制値を超えるケースが散見されます。
原木キノコのセシウム濃度は、キノコの生産地ではなく「原木の生産地」がどこかによって大きく変わります。
キノコが放射性セシウムを蓄積しやすいことは、今回の事故の前から知られており、とくに、チェルノブイリ事故の後は、多くのデータが蓄積されています。
また、シダ植物に高い放射性セシウム濃度が見られる場合が多いことも知られています。データは多くありませんが、日本人が好む山菜の一部はシダ植物であり、福島第一原発事故に伴って濃度が高くなっている例が報告されています。
※シダ類ではありませんが、「コシアブラ」という落葉高木の芽である山菜は、他の植物に比べ3〜10倍ほどセシウムを吸収しやすい性質があり、基準値を大幅に上回る数百から時には数千ベクレルを超えるものもみつかっていますので注意が必要です(事務局追記)。
同様に、イノシシ等の野生動物においても高い濃度の放射性セシウムが報告されています。
動物の食性が放射性セシウムの濃度を左右することが知られており、食物連鎖の上部に位置する野生動物は、森林生態系の汚染を総合的に判断する指標として優れている可能性があります。
文章出典:吉田聡(独立行政法人放射線医学総合研究所) 「原発事故による環境汚染と森林生態系への影響」: 「カタストロフィー巨大災害と森林 —復興と再生をめざして—」 講演要旨集 P3 (平成24年度独立行政法人森林総合研究所公開講演会 2012年10月11日開催)
測定データを見て確認
みんなのデータサイトでは、旬物ボタンを用意し、きのこや山菜のデータを一括で見られるようにしています。実際の測定データを見て、場所や値の情報から、汚染度を確認してみてください。(食品名か画像をクリックすると、該当する食品の測定結果データベース閲覧ページが開きます)
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また、玄米、桃、きのこ類、山菜について、厚生労働省発表のデータとみんなのデータサイトの測定データを比較・考察した結果を、「解析」ページに掲載しています。併せてご覧ください。
●「厚労省データとデータサイトの食品データの掛け合わせ解析(玄米・桃・きのこ類・山菜)」