日本の放射能汚染の現状

 海の放射能汚染は、海が動いているため非常に捉えづらく、多くの研究者や研究団体、市民活動においても全体像を把握することに苦戦している分野ではないかと思われます。 ここでは、国のデータを使って、説明をしていきます。  

水産物の放射性物質検査に関する基本方針

海の放射能汚染の管轄官庁は、水産庁です。
水産庁では平成23年(2011年)5月6日当時に、東日本大震災について~「水産物の放射性物質検査に関する基本方針」について~と題したプレスリリースを発表しました。
それによると、魚の種類を大きく2つ「沿岸性の魚種」と「広域回遊性の魚種」とし、沿岸性の魚種では地域を主に2区分の「神奈川県~福島県南部」「福島県北部以北」に分けてサンプリング調査、広域回遊性の魚種では魚の種類を「カツオ」「イワシ、サバ類」「サンマ、サケの南下群」と分けて検査を実施することとされました。

1)沿岸性種の検査

ア)神奈川県~福島県南部

自県沖の漁場形成を考慮して検査対象海域を定め、海区ごとの主要水揚港において原則週1回(神奈川県、東京都島嶼部は2週間に1回)のサンプリングを実施(市場でサンプリングを行う場合は漁獲海域を確認しつつ実施)。

対象種は、地域の実情に応じ漁期ごとの主要漁獲物を選定。表層(例えば、コウナゴ)、中層(例えば、スズキ、タイ)、底層(例えば、カレイ、アナゴ)等の生息域を広くカバーできるよう選定し、これまで表層を遊泳する種(コウナゴ)に高い放射性物質の検出が見られたことを勘案。

イ)福島県北部以北

操業再開の前に検査を実施し、分析の結果を踏まえ、操業再開を判断。操業を再開する場合は、海域を定め、海区ごとの主要水揚港において原則週1回(岩手県以北は2週に1回)の検査を実施。

対象種の考え方は上記(ア)と同様とする。

2)広域回遊性魚種(カツオ、サバ、サンマ等)

検査は関係業界団体及び水揚地となる道県と協力して行う(特に漁場北上に伴う検査体制については業界等と調整中。また、北部太平洋まき網漁業協同組合連合会所属の試験操業船「北勝丸」の活用も図る)。

ア)カツオ

伊豆諸島、房総沖での漁場形成(5月中旬頃)以降、原則週1回の検査を実施(水揚げが想定される千葉県内の漁港(銚子及び勝浦)でサンプリングを実施)。

福島県沖(通常240~320キロ程度沖)で漁場形成が予測される場合(6月上旬頃)、試験操業船による事前のサンプリングを実施。分析の結果を踏まえて同漁場での操業の実施を判断。操業を継続する場合は、原則週1回のサンプリングを水揚港において実施。

宮城県以北に漁場が形成される場合も原則週1回の検査を実施。

イ)イワシ、サバ類

千葉県沖に漁場が形成されている間は、水揚げが想定される千葉県内の漁港(銚子)でサンプリングを継続。

茨城県沖での漁場形成が予測される場合(5月)、茨城県の協力を得つつ同県水産試験場の調査船によりサンプリングを実施。分析の結果を踏まえて操業の実施を判断。操業を継続する場合は、原則週1回のサンプリングを水揚港で実施。

福島県沖で漁場形成が予測される場合(6月頃)、試験操業船によるサンプリングを実施。分析結果を踏まえ、上記と同様の対応をとる。

宮城県以北に漁場が形成される場合も原則週1回の検査を実施。

ウ)サンマ、サケの南下群

夏以降、原則週1回の検査を実施。

海産魚介類の放射性物質検査の 実施の概要(PDF:62KB)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/110506.html  

以下は、潮流の流れと魚種の回遊ルート、放射性物質検査の実施概要です。



実際の調査は、「県域を区分」し県単位の管理の元で、実施されています。
以下、100㏃/kgを基準とした「自粛・出荷制限指示」と「出荷」についての調査の枠組みです。



事故後(2012年頃)の測定結果

 事故直後は、政府も測定体制を構築するのに時間がかかっており、検体数も非常に少なく統計データと言えるものになっていません。 一定数の測定が出た2012年1~3月のサンプリング調査の結果を表示します。



暫定規制値500Bq/kgのもとで、基準値超えが3%は非常に高い汚染ですし、魚の種類も多岐に渡っている上、広域に分布しています。   2013年3月8日付の出荷制限・操業自粛等の状況では、福島県のみならず、広範囲に渡って該当がありました。2年経っても、このような出荷制限があったことは、あまり知られていない情報ではないでしょうか。 ちなみに、平成24年(2012年)4月1日に新基準値に移行しているので、制限の目安は100Bq/kgです。  




2018年頃の測定結果

では、最近の状況はどうなっているのでしょう? 以下は、2018年4月27日の出荷制限の状況です。



 2017年12月13日に発表された出荷制限内容と照合ができます。  




現在でも、宮城県沖、福島県沖において、出荷出来ない魚があるのが実態です。

海の汚染は、いまだ深刻です。

水産庁の測定については、以下にまとまった詳細な資料があります。
「水産物の放射性物質調査について」(平成30年3月)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/attach/pdf/kekka-200.pdf  

ストロンチウム、プルトニウムなどの測定

セシウム以外の核種について、ストロンチウム、プルトニウムなどの検出を心配する声が多く聞かれます。
低い値ですが、検査点数に対しての検出割合は高く、ストロンチウム90で1.2Bq/kgを検出したものがあることは驚きを禁じ得ません。

2011年〜2014年頃の検査結果



2018年の検査結果



2017年においてもストロンチウム90は検出されており、問題の深刻さにあらためて気づかされます。
ストロンチウム測定については、市民放射能測定所が高価な測定機器を導入し、高度な測定を継続して行なっています。
是非応援ください。

認定NPO法人 いわき放射能市民測定室たらちね
https://tarachineiwaki.org/radiation/foods-earth-flow  

海の汚染はどこまで拡散しているのか?

2018年3月10日に日本科学未来館にて行なわれた「Lesson #3.11プロジェクト」シンポジウム「原発事故から7年、放射能汚染の状況はどこまで改善したのか」において、「海へ流れ出した放射性物質はどこへ行ったのか?」のテーマで講演を行なった弘前大学 被ばく医療総合研究所の山田正俊氏によると、  

1:表層を東に流れていった(北太平洋における放射性セシウムの広域表面水観測結果)

2:沈み込んで南下していった(北太平洋における放射性セシウムの内部循環過程)

3:粒子状となって沈降していった(粒子状放射性セシウムの沈降および輸送過程、海底堆積物への蓄積量および経年変化)   という3つの現象があるといいます。

原発事故1ヶ月後には粒状態放射性セシウムが2,000km離れた海域の深海に到達し、事故から4~5年後の2015~2016年には北米大陸西海岸に放射性セシウムが到達、水深では800mまで探索したところ100~200mの深さまで沈み込みながら南下していったといいます。

海の汚染は、距離と深さの両方に作用しており、その広がりは膨大です。
今後まとまった報告書が出ることを期待します。