食品データの解析

1. プロジェクトについて

 みんなのデータサイトでは、参加測定室による一斉測定として、2014年に「しいたけ・たけのこ広範囲測定プロジェクト」を実施しました。
事故から8年が経過した2019年春、一般食品に比べて山野の食材の放射能濃度が依然として高い状況にあることから、山菜の中でも幅広く食されている「タケノコ」について、汚染度がどうなっているかを、再度全国一斉で調査しました。



2.調査概要

1)プロジェクト参加測定室[略記号]

おのみち-測定依頼所[a]、
阪神・市民放射能測定所[b]、
未来につなげる・東海ネット  市民放射能測定センター(C-ラボ)[c]、
日本チェルノブイリ連帯基金-Teamめとば[d]、
あがの市民放射線測定室「あがのラボ」[e]、
東林間放射能測定室[f]、
町田放射能市民測定室 はかる~む[g]、
HSF市民測定所・深谷[h]、
森の測定室 滑川[i]、
高木仁三郞記念 ちょうふ市民放射能測定室[j]、
NPO法人 放射線測定室アスナロ[k]、
那須希望の砦[l]、
みんなの放射線測定室「てとてと」[m]、
認定NPO法人 ふくしま30年プロジェクト[n]、
さっぽろ市民放射能測定所 はか~る・さっぽろ[o]、

計15測定室

2)調査時期

2019年3月~7月

3)タケノコ採取

自家採取品・縁故品・市販品など、計127件のタケノコを採取し、試料情報として、産地(当該地もしくは当該県庁・市庁のGPS情報)・タケノコの種類・サイズ・採取日時・採取者名などを記録しました。
*産地については、可能な範囲で詳しく記録していますが、市販品においては都道府県までしかわからないことがあります。

4)タケノコの前処理


5)測定器[使用する測定室の略記号]

ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器核種分析装置(NaI):非電化工房製 CSK-3i[a・b]、ATOMTEX社製AT1320A[e・f・h・i・l・o]、日立ALOKA社製 CAN-OSP-NAI[c・d・j]、EMFジャパン製EMF211[g・m]、応用光研製 FNF-401[k]
ゲルマニウム半導体検出器核種分析装置(Ge):PGT社製 NIGC16190SD[n]

6)検出下限値

検出下限値は、検出器の種類・性能・設置場所の環境など測定装置ごとに異なります。また、タケノコの供試量や測定時間によっても異なります。
したがって、測定試料ごとに異なります。

この調査における測定では、供試量269~1019 g、計測時間0.5~96時間の範囲で実施されました。
結果的に、検出下限値は、セシウム-137で0.1~2.66 Bq/kg、セシム-134で0.08~3.14 Bq/kg、これらの合算値である放射性セシウムとしては0.22~5.66 Bq/kgの範囲でした。
以下に述べる測定結果および考察などでは、検出下限値未満は、数値を「0」として処理しました。



3.プロジェクト結果と考察

タケノコプロジェクト2019の測定結果について、下記のように日本地図に採取地点をプロットし、各プロットの測定結果(測定値)を濃度に応じて10段階に色分けして示しました
(各ポイントをクリックしていただくと、調査結果の詳細をご覧いただけます)。

以下のみんなのデータサイトの「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」による土壌放射能測定マップと見比べてください。
土壌濃度の高いところに、高濃度のタケノコが生育する可能性の高いことが確認出来ます。



なお、2019年の調査では、福島第一原発事故の影響が比較的少ない石川県産や福岡県産のタケノコで0.12 Bq/kgと微量ながらも放射性セシウムが検出されています。
これらの数値はNaI測定器より精度のよいGe測定器による長時間測定の結果で得られたものです。
そして、これらからは半減期が2年と短いセシウム-134は検出されていません。
半減期が30年と長いセシウム-137だけが放射性セシウムとして検出されています。

なお、2011年の事故直後に、半減期が8日のヨウ素-131が福岡県まで到達していたことは福岡県の国への調査報告で明らかです。

さて、2014年の調査で放射性セシウムを検出したのは42件ですが、そのうちの95%(40件)はセシウム-134の検出が確認され、福島事故由来であることが明らかでした。
一方、2019年の調査で放射性セシウムが検出されたのは53件ですが、そのうちセシウム-134の検出は40%(21件)で福島事故由来であることが明らかですが、60%(32件)は、福島事故の影響と共に大気圏内核実験やチェルノブイリ事故の影響も考えられました。

さらに、測定結果の都道府県別の集計を表1に表しました。



表2には、2014年に実施したタケノコプロジェクト2014と今回の調査結果についてその比較の概要を示しました。



1)2014年と2019年の調査結果の比較

調査ができた地域は2014年の23都県に対して2019年は30都道県、調査件数は102件と127件でした。どちらも2019年の方が2、3割増えていますが、検出率については41%と42%で変わっていません。

2014年から2019年までの5年間に放射性セシウム濃度は物理学的な減衰のみを考えても3割ほど低くなっていると思われますが、検出率が変わらなかったのは、2014年にはつかみ切れなかった地域のタケノコの汚染が2019年には検出されたことや、測定時間で見ると2014年の最長が43時間だったのに対して、検出下限値の項で述べたように2019年は96時間とより長時間計測され、より低濃度まで数値化されたことにもよるかも知れません。

実際、2014年の検出下限値は、セシウム-137で0.3~5.8 Bq/kg、セシウム-134で0.3~6.6 Bq/kg、これらの合算値である放射性セシウムとしては0.6~12.4 Bq/kgでしたので、検出下限値も2019年の方が低い傾向にありました。

なお、最大値は2014年の672 Bq/kg(福島県産)に対して、2019年では101 Bq/kg(栃木県産)でした。

表2の最下欄に、各都道県内で検出された値の最大値の大きい順に都道県名と各々の最大値を記載しました。
2019年に栃木県内のタケノコの調査ができたことで、福島第一原発事故による放射能汚染が比較的大きかった地域のタケノコの調査が、数が少ないながらも網羅されたことになり、汚染の大きかったところほど、検出されやすく、また高濃度に検出されやすいことが、明らかになりました。

なお、2011年の事故直後、半減期が8日のヨウ素-131が福岡県まで到達していたことは福岡県の国への調査報告で明らかです。
さて、2014年の調査で放射性セシウムを検出したのは42件ですが、そのうちの95%(40件)はセシウム-134の検出が確認され、福島事故由来であることが明らかでした。
一方、2019年の調査で放射性セシウムが検出されたのは53件ですが、そのうちセシウム-134の検出は40%(21件)で福島事故由来であることが明らかですが、60%(32件)は、福島事故の影響と共に大気圏内核実験やチェルノブイリ事故の影響も考えられました。

2)タケノコの種類による違い

表3および図3でタケノコの種類別の測定結果について比較しました。




タケノコの種類は、図3に示したように、両年ともに、孟宗竹が60%台を占め、種別不明が約20%で、残り20%弱が淡竹や真竹、および件数は少ないですが、根曲がり竹でした。

放射性セシウム濃度については、2014年の最大値672 Bq/kg(福島県産)を示したのは淡竹でしたが、2019年の最大値101 Bq/kg(栃木県産)を示したのは真竹でした。
また、2019年の孟宗竹の最大値は100 Bq/kg(栃木県産)と真竹の最大値に近接していました。

なお、表中の中央値とは、データを大小順に並べた時の真ん中にある数値のことです。2019年の根曲がり竹の中央値が31 Bq/kgで他品種よりも10倍以上高い数値を示していますが、調査件数が2件で濃度が検出下限値未満と62 Bq/kg(福島県産)であったことによるものです。

これらの調査結果からも、種類の違いよりは、生育環境における放射能汚染の度合いが大きく影響していると考えられました。

2014年の たけのこプロジェクト の結果はこちら

3 )タケノコの放射性セシウム濃度の経年推移

プロジェクトデータを含むデータサイトのタケノコデータ(339検体)と厚労省のデータベース(注1)のタケノコデータ(7,687検体)を同一グラフにプロットしたものが、図4です。
(データ抽出はいずれも2019年10月27日、縦軸は対数で表示)



(注1)厚労省のデータ:食品中の放射性物質検出データ https://www.radioactivity-db.info/

最大値で見ると、2011年には3,100 Bq/kgだったのですが、2012年1,300 Bq/kg、2013年470 Bq/kg、2014年672 Bq/kg、2015年460 Bq/kg、2016年244 Bq/kg、2017年450 Bq/kg、2018年413 Bq/kg、2019年では554 Bq/kgでした。

図の中の赤いバーは、2011年3月に放射性セシウム濃度が1,000 Bq/kgのタケノコが物理学的半減期によって経年的にどのように減衰していくかを示したものです。
各年の最大値はほぼその減衰ライン上にあることが分かります。
福島事故当時降り注いだ放射性セシウムは、竹林内においては地下茎を持つ竹本体や土壌中にとどまって、年間を通して竹や土壌の林内循環によって存在し続けるようです。

したがって、タケノコの先端部への凝集はあるものの、タケノコや枯れ葉として林外へ出る以外は、そこに留まり続けることになります(注2)。

今後も、図4で見られるような物理学的半減期による緩やかな減少傾向を維持するものと思われます。

しかしながら、より放射能汚染の大きかった地域、すなわち土壌中の放射性セシウム濃度の高い傾向にある地域には、未確認の高濃度タケノコが存在する可能性があります。実際、図4に示された2019年における高濃度タケノコは、高い順に554、416 Bq/kgでしたが、1番目は宮城県栗原市、2番目は同県丸森町の非流通品のタケノコで、宮城県内でも比較的放射能汚染の大きい地域のものでした。


(注2)梅村光俊・金指努・杉浦佑樹・竹中千里:福島県内のモウソウチク林における放射性セシウムの分布、日林誌(2015)97: 44-500



なお、自然環境内で循環するセシウムの模式図をわかりやすくデザインした、みんなのデータサイトオリジナルクリアファイル「循環する放射性セシウム」を、みんなのデータサイト通販ショップBASE にて販売しています(1枚 300円)。



4.最後に

 タケノコの放射性セシウム濃度は、主にその生育地における福島第一原発事故によって放出された放射性セシウムの飛来度合いを反映していることが分かりました。
また、その濃度の経年推移は、放射性セシウムの物理学的半減期に沿ったものであることが予測され、福島事故後10年目の2020年現在であっても、高濃度の放射性プルームによって汚染された地域では、現在検出が確認されていない高濃度タケノコが存在する可能性があります。

旬のタケノコは多くの人に好まれますが、「測って判断」の心がけが必要です。



(データ集計:東林間放射能測定室・高岡、はかーるさっぽろ・竹ノ内、 文責:C-ラボ 大沼(章))