【受賞】2019年日本ジャーナリスト会議 JCJ賞 受賞のお知らせ
1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して顕彰してきた日本ジャーナリスト会議(JCJ)の2019年(第62回)JCJ賞に、みんなのデータサイト出版の『図説・17都県 放射能測定マップ+読み解き集』が選ばれました!
JCJは、1955年に「去る戦争に協力してしまった、ジャーナリズムの反省の上に立ち、再び、ペンを、カメラを、マイクを、戦争のために取らない、という決意のもとに設立」されました。第1回目のJCJ賞は1957年、調査報道により冤罪事件を告発するものでした。
そのようなジャーナリズムを追求する活動に 今回、産声をあげたばかりの「みんなのデータサイト出版」を選んでいただいたことは、大変光栄なことであり、大きな驚きでした。
大手のマスコミではなく、市民4000人が力を合わせて、政府がやらない調査を行い、福島原発事故の土壌汚染を明らかにし可視化したことを、評価していただきました。また、調べたこと、本にしたいことをありのまま出版するために自分たちで出版社を立ち上げたことも大きな要素だったようです。
贈賞式は8月17日(土)、午後13時から日本プレスセンターホールにて行われました。その贈賞式の模様が記事になりました。
受賞スピーチの模様はこちら
ttps://youtu.be/qVlIxwHH71s
表彰状・トロフィー授与は17分20秒くらいから
受賞スピーチは41分くらいからです。(スピーチ全文のテキストはこのページの一番最後に掲載してあります)
JCJ賞『図説17都県 放射能測定マップ+読み解き集』 みんなのデータサイト出版
受賞理由:
「市民放射能測定室」のネットワークである「みんなのデータサイト」が、福島原発事故後、3400カ所以上から土壌を採取・測定し、延べ4000人の市民の協力で2011年3月のセシウム推定値の「県別土壌マップ」(第1章)をまとめた。放射能プルームの動き、100年後の予測も入れた。第2章で食品についての不安を解消し、自分の“物差し”が持てる。第3章「放射能を知ろう」では、放射能の基礎知識、チェルノブイリとの比較などが深く学習できる。国はやらない、市民の市民による市民のためのA4判放射能必読テキスト。
今回のJCJ賞は、以下の皆様と並んで受賞させていただきました。
大きな新聞やテレビ局とともに、この小さな小さな「みんなのデータサイト出版」が受賞させていただけたこと、驚きでいっぱいです。
【JCJ大賞】
「税を追う」キャンペーン 東京新聞社会部
深刻な財政危機に直面しながら、安倍政権は税金の無駄遣いを続ける。米国からの兵器爆買い急拡大で、5兆円を突破した「兵器ローン」の実態を浮き彫りにした第一弾。教育や社会福祉など国民生活を犠牲にした軍事費を皮切りに、キャンペーンは、沖縄・辺野古の米軍新基地建設や東京五輪などにテーマを広げ、昨年末の予算編成論議にも影響を与えた。政策の是非を丹念に検証し、利権や既得権をあぶり出す手法や報道姿勢は、多くの読者や識者などから高い評価を得ている。
【JCJ賞】
「イージス・アショア配備問題を巡る一連の報道」 秋田魁新報社 イージス・アショア配備問題取材班
2017年秋に始まったイージス・アショア配備問題は秋田、山口県を直接、世界大の問題に突き当たらせている。秋田魁新報は県民の不安に寄り添い、判断材料を誠実に提供していく中で、問題の真意を多角的に探り、県民の声、県知事、市長の取材、議員アンケート、ルーマニア・ポーランドルポを続けた。そして、公立美大での卒業謝辞削除事件を浮かび上がらせ、後に防衛省の適地調査の杜撰さをあぶり出させることになる。配備反対の声は実現していないが、ここには、権力の監視を地で行く地域ジャーナリズムの力の真骨頂がある。
「想画と綴り方~戦争が奪った子どもたちの“心”」 山形放送
児童文学者・国分一太郎は1930年、山形県の小学校で教職に就き、「想画」と呼ばれる生活画教育と、「生活綴り方」教育に打ち込んだ。凶作に見舞われた中で、たくましく生きる村人たちの暮らしを、子供たちは生き生きと画に描き、作文に綴った。しかし、国分の教育にも戦争の影が忍び寄り、治安維持法で罪に落とされる。安倍一強政治のもとで「共謀罪」は治安維持法との類似性が指摘される。制作者は、自由に表現できる未来に向けて「釘一本を打ち込みたい」と考え、番組を世に送り出した、
「ETV特集『誰が命を救うのか 医師たちの原発事故』」 NHK
東電福島第一原発の爆発事故発生直後、広島などから多くの医師たちが現場に入り、汚染された住民や爆発で負傷した自衛隊員の治療など、被ばく医療の最前線で奔走した。医師たちの多くは沈黙を守り、その結果、彼らの多様な体験が十分政策に反映されないまま、各地で原発再稼働が始まることになった。取材班は、治療にあたった医師たちをしらみつぶしに訪ね歩き、医師たち自身の撮影による3000の写真と映像を入手。当時の医療現場のすさまじい実態の全貌を初めて明らかにした。
受賞決定時のJCJ新聞
図説・17都県放射能測定マップ+読み解き集の詳細・購入方法はこちら
スピーチ全文
初めまして。
「みんなのデータサイト出版」代表の、小山貴弓と申します。
本日は、『図説・17都県放射能測定マップ+読み解き集』に対しまして、このような賞を頂きまして、大変感謝しております。大手メディアの皆様、素晴らしい書籍が並み居る中、市民団体が出版したこの書籍をJCJ賞に選んでいただき、「日本ジャーナリスト会議」の皆様に、心より深く感謝申し上げます。
本日は前川喜平さんがいらっしゃっていて、立ち見になる事がわかっていました。仲間が世田谷で1,000人の会場で前川さんの講演を企画し、入り切らなかった方がいらっしゃったからです。
立ち見でずっと聞いてくださっている皆様、ありがとうございます。
大変緊張すると思い、書面を用意して来たので、読みながら、一部アドリブでお話したいと思います。
さて、受賞した私共の事を、一体誰だと思っている方々がほとんどだと思いますので、簡単に自己紹介をさせて頂きます。
みんなのデータサイトは、2011年の東京電力福島第一原発事故後、自ら資金を集めて高価な測定器を調達して、測定活動を開始した、各地の市民測定室が横の手をつないで発足した団体です。
現在、北海道から九州まで、全国31の測定室、メンバー約150人が在籍しています。私達は、それぞれの測定室が独自に測定してきた「貴重な全国の食品の放射能測定データ」を、ワンストップで誰でも簡単に見られるようにと、2013年9月、WEB上に「みんなのデータサイト」をオープンさせました。
不正確な測定結果がデータベースにのらないよう、測定室に参加してもらう際には 正確に測れているかを確認する検定制度も確立しました。測定の技術についても、技術に詳しい測定室が新米測定室をサポートして向上を目指してきました。測定室の皆さんは、普通の市民であり、お母さんグループやご年配の方、また日々忙しい農家さんなど、様々です。
常に大変なのは、会議の実施です。全国のメンバーが一堂に会するには大変な費用が掛かり、1年に1回か2回しか会えません。普段はメーリングリストやFacebookチャットを使って情報共有をしています。会議はそれぞれの仕事が終わった夜に、パソコンを使って音声通話で行ない、資料や議事録はインターネットで共有しています。顔の見えない中で、お互いの人となりや考え方を知るのは大変でしたが、非常にマニアックで根気の要る作業を続けていく内、尊敬しあう気持ちから、地域が離れていても、会えなくても、自然と友情や信頼関係が築きあげられていきました。
自己紹介はこのあたりにして、マップ集のことをお話ししましょう。
マップ集は、第1章「土壌測定」、第2章「食品測定」、第3章「放射能の基礎知識」で構成されています。福島第一原発事故の放射能汚染を「なかった事にさせない」という思いで、書籍をつくりました。
特にこの本の根幹である「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」のことをお話します。
データサイトが走り始めて1年、食品データの登録が1万件を超えた頃、一向に待っても国が始めない「土壌の一斉測定」をやるべきではないかという議論が起きました。国は福島県以外では、ほとんど空間線量の測定しか行なっていなかったからです。「自分の住んでいる、あるいは住んでいた場所がどれほどの汚染になっているかを知りたい」という声や、このままでは福島原発事故由来を証明する「半減期が2年と短いセシウム134」が検出できなくなってしまう、その前になんとか測定をして記録を遺したいという強い声があがりました。
国が放射能の測定地域と指定した「東日本17都県」という広さをどうやって土壌測定するのか、費用はどうするのかなど、まったくあてはありませんでしたが、私達は、このプロジェクトを応援してくださる方が必ずいると信じて、市民の皆さんに協力を求め、走りながら考えて行こうと、2014年10月プロジェクトをスタートさせました。
採取の深さを地上から5cmとし、統一した採取方法を定めました。これは文部科学省やチェルノブイリ事故後のロシアなどでの採取方法と同じです。同じにすることで、後からそれらのデータと比較ができるからです。マンガで土壌採取のマニュアルをつくり、採取講習会を全国各地で100回以上実施しました。資金は、助成金やクラウドファンディングを実施して全国や海外の皆様の協力を得ながら、プロジェクトを進行させていきました。
3年間地道に市民の皆様に呼びかけ続け、ウェブサイト上で、徐々におひとりおひとりの測定ポイントが増えて行く様子、数値を公開しました。最初はまばらにしか測定ポイントがなかった広〜い東日本17都県の放射能汚染の実態が、徐々に見えていく様子に、市民力の大きさと思いの深さを肌で実感しました。スタッフが時々「本当にありがたい」と涙を流していたことを、私は知っています。
そして私自身も、各地で運転手や、採取協力、宿を提供して頂いた皆様の顔を、採取ポイントを眺める事で、今でも懐かしく思い出すことができます。
さて、いよいよこの本を出版した経緯についてお話したいと思います。
参加測定室で積み上げてきた食品データや、特に土壌マップのデータをwebサイトで公開することで、みんなのデータサイトの存在は認知されていきました。しかし同時に、地図を見ても「結局どういう意味なの?」と聞かれることも多くなっていきました。
解説を付けて多くの人が理解できるものを作りたい、手元に置いて何度でも見返せる書籍にして届けたいという思いが、データサイトメンバーの中に日に日に強くなっていきました。
特に、日本政府が実施していない東日本全域の土壌測定データは、大学や研究機関などの専門的な研究者の皆様から「実測のデータは何よりも貴重。推測した理論を裏打ちする、後世に遺る科学的データだ!」と高い評価を頂き、これが強い自信につながりました。
また、解説を付けて発表する事は、データの中立性を逸脱するものではないというご意見も頂き、市民による科学的なデータ、市民科学の重要性を認識して、私達は具体的な書籍出版に向けて動き出したのです。
こだわりの強い、いい意味でオタク集団であるデータサイトは、最初に、どこかの出版社を通してしまうと、編集部の意向で書きたいことが書けなくなったり、無理な締め切りの中で不完全燃焼になるのでは、という事を危惧しました。結局、納得のいく形で誌面をとことんつくるには、自分達の出版社を作るしかない!という決断をすることになりました。それが「みんなのデータサイト出版」です。そのまんまの名前ですね(笑)。
原稿は、各地の測定室と、日頃情報交換や連携をしている団体の方々、被災当事者の皆様など、総勢30名で書き上げました。最初から、大きくA4版で、オールカラーで、図鑑のようにしたい!値段はなるべく安く!というイメージだけは固まっていましたが、それを実現するのは簡単なことではありませんでした。
たった一言の「言葉」の表現をめぐって各測定室と個別に何時間も議論したり、ページ数の関係で削除せざるを得ない部分について攻防したり、被災当事者の方々が読まれた時にどんな思いになるか、思いをめぐらせたりしました。
しかし、そのみんなとのやり取りこそが私達の団体名「み・ん・な・の」データサイトなのだ、この「みんなの」に大事な意味があるのだと何度も助けられ、当初、ちょっとストレートでダサくないかと思っていたこの名前が、愛おしくも感じられ、「市民の市民による市民のための」を表す「素敵な名前」だと思うようになりました。
本を出版すると、「こんなにわかりやすい本をありがとう!」「ずっと不安に思っていた、知りたいことが書いてある」「国がやらない地道な実測調査に感銘を受けました」という感謝の声をたくさんいただきました。
一方、「この仕事は、国がやるような一大事業。なぜ、国がお金を出して、積極的にこれをやらないのか?」という言葉もたくさん聞かれました。
原子力政策は、国策です。その失敗においても、国家が当然責任を負うべきだと思います。
チェルノブイリ原発事故では、避難の基準は空間線量だけではなく、土壌汚染の数値も使って決められ、後に農家の作付け許可の目安としても使われました。土壌汚染マップは、ロシアやベラルーシにおいて「ATLAS」という名前で公開され、「チェルノブイリ原発事故が招いた、現在および将来の放射能汚染予測」という副題を付けて、現在2056年までの地図を見ることができます。私達は、国が作らないのならと、日本版のATLASをずっと作りたいと思っていたのです。そしてそれがこのマップ集になりました。
日本では、土壌測定をしないばかりか、福島原発事故は、地震による津波から起きた「天災」で、「現行法の範囲で、国も東京電力も対応してきたから責任は無い」という判決が出された裁判もあります。事故後の移住・補償の基準にしても、国で保養を制度化して、今なお継続して行なっているロシア各国の状況と比べると、天と地ほどの差があります。
これほどの大惨事を経た現在でも、日本では誰も責任を取りません。
この現実を体験してなお、8年がたった今、日本政府や電力会社は、原子力ムラの学者たちを総動員して、原発再稼働に再び舵を切ろうとしています。
「民意」を置き去りにして、時の政権の意のままに社会が動いていく様を、様々な局面で見せつけられることに、深い悲しみと憤りを覚えます。
今こそ、マスコミ界、心あるジャーナリストの皆様の奮起を望みます。
市民の小さな力が、さざ波のように広がって出来たこの本は、まだ一部の心ある方々に読まれたに過ぎません。是非とも、この本の存在を広めて頂けるよう、ご協力を頂ければと思っています。
市民科学の旗を高く掲げて進んでいる私達「みんなのデータサイト」にとって、今回の受賞は大いに励みになります。
国が言ったから、有名な学者が言ったからと鵜呑みにするのではなく、自分たちの手で問いを立て、何が科学的な事実なのかを自分たちの手で調べ、今後も「市民力の発揮」と「市民科学の実践」に力を尽くしていきます。
最後に、
日頃システム運営をサポートしてくださっている「石原 佳典さん」、
サーバーを貸してくださっている慶応大学SFC研究所の「斉藤 賢爾さん」、
WEBの構築をして頂いているミントコードの「笠谷 亜貴子さん」、
市民として、またお母さんの目線で最高のデザインをしてくれた、デザイナーの「荒木 直子さん」、あなたがいなければマップ集は出来上がりませんでした。ありがとうございました!
また、250万円の目標額に対して、600万円もの資金をクラウドファンディングで調達し、データサイトの財政をV字回復させてくれた「柳澤 史樹さん」、
そして、奇跡の出会いから、出版の事を一から教えて頂き、様々な困難に対して最良の提案とサポートで支えてくださった印刷会社「イニュニックの山住社長」、
本が書店に並ぶよう地方小出版との取引の道を開いてくださったパズル会社「二コリ」の皆様、
間を取り持ってくださった「森本様」、
最初の納品のドタバタからずっとご協力を頂いている「地方小出版様」、
助成金で支援をしてくださった「三井物産環境基金様」「アクトビヨンドトラスト様」「LUSHジャパン様」「立正佼成会一食平和基金様」、
そしてみんなのデータサイト発足の「きっかけ」ともなった「高木仁三郎市民科学基金」の皆様に、
深く感謝を申し上げます。
何より、財政的に困難な中、地道に測定活動を続けている測定室の皆さん、そして、データサイトの土壌採取、3,400ヶ所の土を採取してくださったのべ4,000人の採取者の皆様、地道に食品の測定依頼をしてくださっている皆様、資金面でここまで支援してくださった市民の皆さんに、
「この受賞は皆さまのものです!」と、お伝えし、受賞のご挨拶とさせて頂きます。
ありがとうございました!!