【安心安全? だったらしっかり数値を出しなさい!】 「科学的」ならば、検証可能なかたちで世界に発信せよ


今回の東京オリンピック・パラリンピックの理念の一つに、東日本大震災・福島第一原発事故から復興した姿を世界に発信する『復興五輪』があります。そして、政府はそれを形にするための施策として、被災地の食材を積極的に活用するという方針を打ち出しました。県産農産物の国内価格低迷や海外での輸入規制に苦しむ福島県は、この世界的イベントが県産農産物の放射性物質についての安全性をアピールする一大機会になると判断し飛びつきました。

しかし、いざ蓋を開けてみると、選手村のメイン食堂では24時間営業を行うという名目で、個別の産地について表示をしないことになりました。同じ品目でも各地のものが混在するうえ、提供時間によっても産地が変わることを加味して検討した結果ということでした。

“復興五輪”はどこへ・・・福島で明日から競技開始|TBS NEWS https://web.archive.org/web/20210720102820/https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4319276.html


五輪開幕直前にこれらの情報が流れると、福島県に関係する、もしくは県選出国会議員から疑問の声が相次ぎました。7月28日に、福島市の県営あづま球場で東京オリンピック野球の開幕戦を観戦した平沢勝栄復興相は、「福島県産食材が使われているにもかかわらず産地が表示されていない」と選手村で提供される食事の扱いに苦言を呈しました。

平沢復興相、大会組織委に苦言 選手村食事の産地表示巡り:政治:
福島民友新聞社 みんゆうNet
https://www.minyu-net.com/newspack/KD2021072801001441.php


そして、メイン食堂で福島県産品の表示がないこと以外にも、韓国が福島産の食材を忌避していることも問題視されました。韓国は自国選手団に対して、選手村での食事ではなく自主調達弁当を用意することにしたからです。東京新聞の記事では、特定の国を名指してはいませんが五輪組織委の担当幹部が、「本来はもっと復興をアピールしたかったが、一部の国から放射性物質を理由に、福島県産を食べたくないという声があった」と語っています。

復興五輪、看板倒れ…選手食堂での被災地食材アピール見送り 「一部の国から拒否の声」に抵抗できず:東京新聞 TOKYO Web https://www.tokyo-np.co.jp/article/117584


これらのことを受けてか、福島県選出の玄葉光一郎衆院議員は28日に行われた衆院内閣委員会の閉会中審査において、選手村で提供される食材の産地表示や安全性の発信不足を指摘し、「選手は発信力がある。福島県産品は徹底したモニタリング検査をやって100%安全なものしか出回っていない、とパネルで説明するぐらいのことをやってほしい」と政府側に迫りました。

復興五輪、どこいった? 福島産の表示めぐり国会で指摘:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASP7X756MP7XUTFK01L.html


日本政府は、新型コロナウイルス感染症で「安心安全」という言葉を繰り返していますが、食品にまつわる放射能問題についても新型コロナと同じような対応をしてきました。前述の玄葉衆院議員が「100%安全なものしか出回っていない」と言うほどに、日本は福島県の農産品の精緻な測定を行い、結果を発表していると言えるでしょうか?
確かに、基準値を超えないものが市場の大半を占めるのも事実です。しかし、そこで語られるのは「基準値を超えなかった」という言葉であり、超えなかったとしてそれは限りなく低い数値なのか、それとも100ベクレルに近い数値なのかということについては二の次となっています。
これが世界に向けて発信する段となったとき露呈し、遂にお題目だけで納得してもらうことはできなくなりました。この点について、東京大学環境分析化学研究室助教の小豆川勝見氏がブログで指摘していますので、以下に引用します。


国が測定を行ってきたことは承知していますが、本当にそれを世界中にきちんと「繰り返し」「きちんと」「発信して」きたでしょうか。
食材に限らず、サーフィンの会場の海水中の放射性物質は?あづま球場の汚染度は?水球のプールの水質は?海外向けのオフィシャルガイドブック(英文)を読む限りでは、「安心・安全」という呪文のような言葉しか記載はありませんし、オリンピック組織委員会の(英語版)サイトにも「radiation」のひとこともありません。


引用元:改めて「測定と公開は大事」というお話
何度も測って公開することの大切さ
K. Shozugawa https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kshozugawa/olympic3.html


日本政府の常套句に「丁寧に説明する」がありますが、国内で実際に行われることはほとんどありません。そして、小豆川氏が指摘するように、海外に対しても日本政府は「丁寧に説明する」ことを怠ってきました。そして、東京オリンピックの開催によって引き起こされた様々な失態は、日本政府の平常運転が世界に通用しないことを明らかにしました。世界に無様な姿をさらした今こそ、日本政府はこれまでの姿勢をあらため「丁寧に説明する」ことを始めなければならないでしょう。


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