【メディア掲載】Cラボ大沼淳一さんの寄稿が図書新聞(2017.6.24)に掲載されました

みんなのデータサイト参加測定室の1つ、未来につなげる・東海ネット 市民放射能測定センター(C-ラボ)の大沼淳一さんが、図書新聞(2017.6.24)に寄稿した記事を共有します。是非ご一読ください。

「過酷な放射能汚染地域では帰還の強制ではなく 避難・移住の権利を」〜今からでも遅くはない、被曝限度を年間1ミリシーベルトに戻さなければ〜

大沼淳一



 福島原発事故が起きて、大量の放射能が17都県に降り注いだ。この時政府がとった政策は最悪のものであった。社会主義政府のもとで発生したチェルノブイリ原発事故の時にとられた政策と比べても数段劣悪なものであった。巨費を投じて開発されていた放射能の雲の移動予測システムSPEEDIが活用されず、避難指示は後手後手に回り、むざむざ大量の住民に過酷な初期被曝をさせてしまった。さらに、法律で定められた一般人の追加的被曝線量限度である年間1ミリシーベルトを放射性物質汚染対処特措法によって20ミリシーベルトに引き上げ、これを上回る区域だけでしか避難対策を講じなかった。区域外の避難者に対しては冷酷な対応に終始してきており、先ごろ失脚した今村元復興大臣発言は政権の本音にすぎない(区域外避難者は災害救助法でわずかに住宅支援を受けていたが、それも本年3月で打ち切られてしまった)。すでに184人に達した小児甲状腺がん患者多発についても、初期被曝が原因であることを認めようとしていない。
 政府は、国際放射線防護協会ICRPが重大事故など非常時に設定する一般人の参考レベルとして設定した年間20〜100ミリシーベルトの下限をとったとしているが、すでに事故収束宣言(2011年の野田首相)や「アンダーコントロール発言」(安倍首相)が時の総理大臣によって発せられているわけで、せめて年間5ミリシーベルト、あるいは平時の1ミリシーベルトに戻さなければならない。しかし政府は今でも年間20ミリシーベルトを改めず、これを下回ったとして汚染地域への住民帰還政策をごり押ししている。
 そもそも年間1ミリシーベルトは安全基準ではない。ICRPは被曝線量とがん死リスクとの関係が閾値なしで直線関係にあるとするLNT仮説に従って、集団被曝線量1万人・シーベルトで500人のがん死リスクがあるとしている。これを100万人が年間1ミリシーベルト被曝する場合に換算すれば、50人のがん死リスクということになる。ダイオキシンなどの有害化学物質の基準設定が10万〜100万分の1のがん死リスクで設定されているのと比べると、ヒトの健康に対して5〜50倍過酷な基準設定だということになる。年間被ばく限度20ミリシーベルトは100万人あたり1000人のがん死リスク(1億人なら10万人)をやむをえないとする基準であり、化学物質の基準の100〜1000倍のリスクを押し付ける過酷な基準である。
 チェルノブイリ事故後5年目に制定されたチェルノブイリ法では緻密な土壌放射能汚染結果を踏まえて、土壌1キログラムあたり2800ベクレル(=1平米あたり18万5000ベクレル)を超えれば移住(避難)の権利を認めるものであった。しかるに日本政府は2011年に限定された地域について文科省が行った土壌調査を最後に、以後は航空機による精度の悪い空間線量率調査しか行っていない。これに対して、全国32か所の市民放射能測定所(筆者が関わるCラボも参加)が連携する「みんなのデータサイト」(https://www.minnanods.net/)が実施した17都県約3200地点におよぶ「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」調査結果によれば、政府が避難対策を講じなかった福島県中通、宮城県南部、栃木県北部、千葉県西部、岩手県南部などにおいて、チェルノブイリ法の移住の権利ゾーンに相当する汚染域が2017年時点でも広範囲に存在することが明らかになった。
 2012年6月、議員立法で制定された子ども被災者支援法は「居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援する(2条2)」「基本方針を策定するときは、事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させる(5条3)」ことを定めている。今からでも遅くはない。被曝限度を年間1ミリシーベルトに戻すとともに、それを上回る地域の約200万人超の人々の避難の権利を認め、避難先での生活と就業の保証、原爆被害者に公布されたのと同様の被爆者手帳に基づく健康管理などが実施されなければならない。また、学術会議提案にもあった二重住民票制度によって、50年〜100年後に子孫が故郷に戻れる権利を確保することも必要である。(未来につなげる東海ネット・市民放射能測定センター<略称:Cラボ>運営委員、原子力市民委員会委員 大沼淳一)





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