キリスト教系の広報誌に汚染水海洋放出に関する寄稿をしました
キリスト教系の団体CWMの冊子INSiGHT2023年11月号の14ページから17ページに、「トリチウム等アルプス処理汚染水の解放放出」抗議文が掲載されました。
こちらからどなたでも ウェブ閲覧またはPDFでダウンロードして読むことができます。
https://www.cwmission.org/resources/insight/
2023年11月号の画像の左下がオンライン閲覧(View Online)、右がPDF(DOWNLOAD)です。
いずれかをクリックしてお読みください。14から17ページがみんなのデータサイトの記事です。
このような機会をくださったCWMに感謝します。
*ご参考に、以下に日本語訳を掲載します。
海はゴミ捨て場でもなければ、人間の持ち物でもありません。フクシマの汚染水を海に流すな
2011年、マグニチュード9の大地震とそれに伴う大津波が太平洋沿岸を襲いました。東京電力福島第一原発はその大津波により電源喪失して冷却できなくなったことが主な原因で、4基の原子炉のうちの3基が爆発しました。放出された大量の放射性物質の約8割は西からの風向きで太平洋側に流れ、残りの2割は陸地を汚染したといわれています。
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)2013年報告によれば、事故からおよそ1ヶ月以内にFDNPSからは750京ベクレル(7500ペタベクレル)もの放射能が大気中に放出されています。この放射能量は通常運転している世界中の原発が年間排出している放射能の総量をはるかに超える量です。これ以上、壊れた原子炉から放射能を放出することは許されません。
にもかかわらず、TEPCOは2023年の夏に汚染処理水の海洋放出を強行しました。
放射性物質はDNAを切断し、あらゆる生物に遺伝子の異常を招きがんなどにかかる確率をあげます。また食物連鎖で生態濃縮し食品を通じて体内に取り込まれる恐れもあります。
私たちは故意に放射性物質を海に流す行為を1日も早く止めるよう反対の声をあげています。
■TEPCOはどんな水を海に流しているのか?
現在汚染水のタンクは千を超え、総量は124万トンです。なぜこんなに大量の汚染水が発生しているのでしょうか。
原発の核燃料は再臨界を防ぐために水に満たされ密閉され冷やし続ける必要がありますが、事故によりヒビが入って壊れた原子炉からは水が漏れてしまいました。そこで破損した原子炉を冷やすため外部から大量の水を注入する必要がありました。さらに福島第一原発周辺は地下水が豊富で壊れた建屋内に地下水や雨水が流れ込みます。地下水は原発を冷やす水と混ざり壊れた格納容器内の核燃料デブリに直接触れることで、物凄い高濃度の汚染水がどんどん増えているのです。
事故後、この高濃度汚染水は直接海に流れ出ていました。この水の流れを止めるため、TEPCOは原子炉建屋内や敷地内から水を汲み上げる様々な設備を作り、汲み上げたこの高濃度汚染水をろ過装置ALPSで処理をしてある程度の放射性物質を取り除いたものがタンクに保管されている水の正体です。(実際にはすべての汚染水をコントロールすることは不可能で、相当の量の汚染された地下水が直接海に流れ出ていると推察されています。TEPCOは決してこのことを公にしませんが。)この水には取り除くのが困難なトリチウム以外にも62種類(脚注*)を超える放射性核種が含まれています。
それらの水の「汚染」度合いを大まかにいうと、このうち汚染水に関する国の「規制基準」を満たすものが3割で、残り約7割はいまだ汚染が規制基準すら満たしていない水です。つまり政府や東電が呼ぶ「処理水」とは、規制は満たしている汚染された水と、規制すら満たしていないとんでもない汚染水です。まったく安全な水ではありません。
TEPCOは、汚染の高い水は再度ALPSで浄化して規制値を下回ることを確認し、さらに海の水で薄めてから海に流すと言っています。
しかし基準をクリアするために海の水で薄めるという手法は1970年代に横行した公害企業と同様の所業であり、新たな環境汚染行為の実施宣言に他なりません。
日本政府やIAEA(国際原子力機関)は、トリチウムの排水基準60000 ベクレル/リットルを40分の一に希釈した1500 ベクレル/リットル以下のALPS処理汚染水の海洋放出は、「科学的根拠に基づく」、「国際安全規格基準を満たす」と声高に喧伝しています。
海洋放出について、政府やIAEAの掲げた錦の御旗を無批判に広く国内外に情宣するマスコミ報道もまた遺憾です。
日本政府やIAEAが依拠する基準は、原子力施設の正常運転時の基準です。原子炉がメルトダウンした原子炉の汚染水と正常運転している排水とを同じ基準で語ることには無理があります。
■がんの健康被害リスクにしきい値はない。
1895年にレントゲンがX線を発見して以来、私たちは放射線から多くの恩恵も受けてきましたが、一方、低線量被ばくによる健康被害リスクや広島・長崎の原爆投下に見るような大量殺戮をも受けてきました。
放射線防護とは本来、できる限り放射線被ばくリスクを少なくすることを目指したものです。しかし、放射線防護に関する民間の国際学術組織であるICRP(国際放射線防護委員会)は、歴史的な変遷にあわせた考え方で勧告をしてきました。すなわちそれは、健康リスクよりも社会的なベネフィットを重視するということです。1959年には、ICRPが世界保健機構(WHO)、IAEA、UNSCEARと連携し、IAEAつまり原子力推進側の影響を受けるようになったと言われています。
それでも今なおICRPは低線量の放射線被ばくによる確率的影響についてはLNT(しきい値なし直線)モデルつまり、放射線被ばくは少なければ少ないほど健康影響も少ない、という考え方を堅持しています。原子力大国フランスでさえも、2005年のフランス科学アカデミーと医学アカデミー共同報告書では、約10ミリシーベルトを超える線量の放射線防護規則を定めるためには実用的で便利なツールになりうるとしています。また、NRC(米国原子力規制委員会)は数年間の検証結果を基に2021年に「LNTモデルが、公共のメンバーと放射線作業員の両方への不必要な放射線被ばくのリスクを最小限に抑えるための健全な規制基盤を提供し続ける」としています。
私たちは、LNTモデルを支持します。また、1992年リオデジャネイロの地球環境サミット(環境と開発に関する国際会議)で確認された予防原則の考え方を支持します。したがって、これ以上の余計な被ばくを避けるために、日本政府・東京電力がこの夏強行したトリチウム等ALPS 処理汚染水の海洋放出に断固として反対します。
■流さずタンク増設と汚染水発生量をゼロにする努力を!
トリチウム等ALPS 処理汚染水の海洋放出については、国内外から反対の意見表明がされていますが、とりわけ、経済的にも多大なる影響を受けることが予想される漁民や流通・加工などに関わる水産関係者の方々の声を無視しての強行は許されません!
政府は「風評」といって、水産業者の方々の理解を得ようとしています。しかし、水産業者の皆さんにとっても私たち消費者にとっても、原発事故による放射能の環境放出は「風評」などではなく、健康や経済問題等に関する「実害」です。
東電や政府はすべての汚染水タンクが満タンになりもう増やせない、汚染水を流すしかない、と言っていますが、実はFDNPS構内には約64ヘクタールの空き地が残っていて、汚染水タンクの増設は可能です。
この空き地に関して東電と政府は、事故直後に発表した30~40年で廃炉できるとするロードマップを根拠に必要だと言っています。しかし、このロードマップを誰が信じているというのでしょうか。日本原子力学会福島第一原子力発電所廃炉検討委員会の中間報告(2020年7月)は、廃炉に必要な期間を100~300年としています。廃炉に向けての核燃料デブリ回収のめども立っていません。30~40年廃炉ロードマップの設定は虚構でしかありません。
今からでも遅くはない。彼らは炉心冷却を空冷方式にし、汚染水の発生量を可能な限り減らす本気の努力をして経路不明な汚染水の漏洩を止めるべきです。
そして汚染水は海に流さず地上にタンクを増設し日常管理を続けるべきです。トリチウム等の半減期を待ちながら、汚染水から放射性物質をほぼ完全に取り除ける技術の開発を続けることが汚染水管理の最善の解決策なのです。
さらなる放射能の環境への放出を減らすことこそ事故を引き起こした責任企業の責務であると考えます。
海はゴミ捨て場でもなければ、人間の持ち物でもありません。海はありあらゆる生命の源であり、全ての水は循環することでつながっています。故意に汚染することは許されるものではないことを私たちは改めて訴えます。この先何十年も続くこの海洋投棄を速やかに止めましょう!
(*脚注)
IAEA安全性レビューに関する包括的報告書(2023年7月4日)に記載された日常的な検出核種とは、セシウム(Cs)-134、Cs-137、コバルト(Co)-60、アンチモン(Sb)-125、ルテニウム(Ru)-106、ストロンチウム(Sr)-90、ヨウ素(I)-129、トリチウム(H-3)、炭素(C)-14、テクネチウム(Tc)-99 である。
NPO法人みんなのデータサイト:22012年にできた全国の市民放射能測定室とその支援者のグループ。人々を被ばくから守るため、独立して測定活動・情報公開をしています。https://en.minnanods.net/