「那須希望の砦」10年の記録
1.「那須希望の砦」の立ち上げ
福島第1原発から約100Km離れた那須地域は、放射性物質が飛来し、福島とそれほど変わらない放射能に汚染されました。(図―1)
地域の人々は不安に陥りましたが、事実を直視し、みんなの力で那須を本当に安心できる地域にしてみようという趣旨で始まったのが「那須を希望の砦にしよう!プロジェクト」でした。住民がお金を集め、放射能測定機器を購入し、住民が放射能レベルを測定して、分析、研究を続けてきました。“子どもたちを放射能から守っていこう”と、みんなで考え、できることは全部やってきたのがこのプロジェクトです。
当初の1年間は、行政との連携ができ、住民が主体となって那須地域を安全な地域にしていこうという活動が盛り上がりました。しかし2年を過ぎたあたりから、行政との連携もスムーズに進まず、活動も停滞し始め、2年半後には、組織を解散し、その後再発足させ、現在に至っています。以下に、これまでの活動について報告します。
(1)講演会、勉強会の開催
2011年4月9日に、講演会「福島原発事故を正しく理解し、那須町を希望の砦にしよう!」を開催し(約500名参加)、以降、講演会や勉強会(毎回数百名参加)を重ね、放射能を正しく理解し、放射能計測方法を学びました。
(2)那須を希望の砦にしよう!プロジェクト立ち上げ
2011年5月19日に「那須を希望の砦にしよう!プロジェクト」を立ち上げた。
(3)栃木県北地域の放射能測定
栃木県北の空間線量測定(延べ約1000人、1400か所)那須町全小学校の通学路の空間線量測定(那須町教育委員会、保護者と共同作業)(図―2)
(4)計測所の立ち上げ
2011年9月よりシンチレーション式サーベイメーター(LUDLUM M-3)と遮蔽Boxを利用した手作り計測器を使用した計測所を立ち上げ、食品や土壌などの計測を開始した。2011年12月よりATOMTEX社製「AT1320A」の使用を開始した。計測器は、約半年間に寄せられた寄付金で購入した。計測所は、10年間の間に3回移転し、現在の計測所は4番目となります。(図―3)
2.当初1年間の活動
(1)自治体への提言
「那須希望の砦プロジェクト」の5ヶ月間の活動報告と提言を那須町、那須塩原市、大田原市に提出した。
(2)除染実施の署名活動
栃木県は表土除去や屋根の除染が国の除染に含まれておらず、表土除染の実施を要請する署名活動を行った。(5万人の署名を集め、2012年4月環境省に提出)
(3)放射能に関する各種調査・研究
①家屋丸ごと計測・除染プロジェクトの実施
②子どもの被ばく量推定
③除染方法の調査(素材ごとの高圧洗浄効果の調査、土壌除染方法、遮蔽効果など)
④作物移行係数調査(50種類以上の作物を9,000~28,000Bq/㎏の高濃度汚染培土で調査)
⑤栃木県北の表土調査(那須町、那須塩原市の表土は平均で20,000Bq/kgを超えている)
(4)子供健康手帳
2012年11月に「子供健康手帳」を発行し、那須町・那須塩原市・大田原市の保育園、幼稚
園の希望者へ無料で配布した。
(5)除染事業(土木工事会社と共同で除染事業を開始した)
3.2年半後に解散、再発足
(1)那須希望の砦をNPO組織に
金銭的支援を得やすくするため、2012年5月にNPO組織とした。
2013年11月に運営資金、事務局機能の問題、活動会員減少により活動を継続ができなくなり、NPO組織を解散した。2013年12月に「那須希望の砦」を再発足した。設立当初の目的“子供を放射能から守る”の原点に戻り、任意団体として活動を継続する。
4.3年目以降の活動
(1)活動の変更
資金的課題を解決するため、全員無償でのボランティア活動とし、有償除染事業は中止した。2014年4月より、計測所を再開し、食品や土壌などの計測を行っている。
(2)主な活動
①栃木県北ADR申し立て活動支援
2015年6月に栃木県北ADR申し立てを行った。(7300人参加)
しかし、2017年7月に調停案すら出されず、打ち切られて終了となった。
②放射能計測費の無料化
2015年より、放射能計測件数の減少対策として、計測費の無料化を開始した。
③ホットスポットファインダー(HSP)購入のためクラウドファンディング実施
2016年2月にクラウドファンディングを開始し、50名の方から75万円の協力をいただき、念願のHSPを購入し、ホットスポット調査を開始した。
④みんなのデータサイトの東日本土壌測定プロジェクト
2016年みんなのデータサイトの東日本土壌測定プロジェクトに参加し、栃木県北の土壌測定を行った。
⑤情報誌の発行
2016年より、「砦News」を年1、2回発行している。
⑥ホットスポット調査と除染
ホットスポット調査で高濃度地点が判明した場合、行政に連絡し除染してもらっている。また、幼稚園のホットスポット調査、除染を職員と共同で行った。ある小学校の敷地内の全調査を行い、ホットスポットの対策をしてもらった。
⑦計測員への交通費支払い
これまで会員に無償で活動してもらっていたが、2018年よりガソリン代を支給することにした。
5.残された課題
(1)会員の減少
現在会員数は、61名と少なくなり、高年齢化してきている。
会員、特に若い方の参加が急務となっているが、良い対策がない。
(2)測定数の減少
放射能への関心が薄くなり、測定数が少なくなっている。
放射能に関心を持ってもらう取り組みが必要となっている。