2021年の3.11 市民測定の記録

「図説・17都県放射能想定マップ+読み解き集」デザイン・レイアウト担当 荒木直子

 2011年、世田谷区にある冒険遊び場”羽根木プレーパーク”との出会いがあり、翌年から2歳の娘を連れて毎日のようにプレーパークで外遊びをしていました。
こぶたのように泥まみれになって、遊び回る子どもたちの姿を微笑ましく眺めながら、「この土の上にはどれくらい放射能が降ったんだろう・・・」と薄ぼんやりとした不安を心のどこかに抱えていました。


 そんなある日、プレーパークのベテラン世話人さんたち(地域の運営ボランティア)が事故直後に園内の空間線量を測っていた、ということを知り、

「そうか、放射能って自分たちで測って調べることができるんだ!」と驚きました。

 今となっては当然のことなのですが、原発や被ばくのことについて情けないほど無知だった当時の私にとっては、目から鱗が落ちたような衝撃でした。

 それからは、お母さんたちと園内の土や木の実のベクレル測定とデータ公開をする有志の会を結成し、放射能についての小さな勉強会やお話会、上映会などを開催したりしていました。



 そんな中、2014年10月から始まった17都県土壌測定プロジェクトへの参加をきっかけに「みんなのデータサイト」とつながることになりました。正しい土壌の測定方法、データの読み方、データ公開のための行政との交渉など、私にとっては未体験のことばかりでしたが、その活動の中で、尽力されている皆さんの「国がやらないなら市民でやる」という確固とした自治の精神を、随所で目の当たりにしました。

 このプロジェクトの中で、東日本17都県、のべ4,000人の市民が3,000ヶ所以上の土壌を採取し、測定したという事実は、私に大きな勇気と希望を与えてくれました。これは「未来を託す子どもたちのために、 きちんと記録を遺していきたい。」と考える“諦めない市民”が、まだ全国に存在しているということの証だと思いました。


 しかし放射能測定のデータを読み解くという作業は、日常の育児・仕事にてんてこまいのお母さんには至難の技。この貴重で難解なデータを、どうやったら一般の市民 (私のような)に届けることができるのか?が当初から大きな課題でした。

 そこで「固い専門書のような装丁ではなく、学校の授業で慣れ親しんだ写真やイラストが満載の【図説】のような雰囲気にしよう」と企画者のみなさんと何度も話し合いました。案内役としてマリネリくんをはじめとした測定器ファミリーにも大活躍してもらいました。この書籍に納められた執筆者の皆さんによる積年のデータと解説は、この先、少しでも子どもたちが生き延びる可能性を上げるための、大事な道標であると思います。




 「不幸な事故に遭遇した私たちが未来に遺す貴重な記録を、書籍の形にして後世に残したい」。
この重大なプロジェクトに、デザイナーとして関わらせていただけたことは、私にとって娘に誇れる大きな勲章です。

 2021年、あの事故を経験して10年目。
今も震度6レベルの地震が、思い出したように大地を揺さぶります。
本当に考えたくはないけれど、このままではいつか必ず次の事故が起ります。
その時に、私は子どもたちにもう「知らなかった。騙された」と言いたくないのです。

 10年間続く原発事故による緊急事態宣言に加え、2020年はコロナ禍にも苦しめられました。
度重なる未曾有の大禍の中で生き延びるために、「国がやらないなら市民でやる」という自治の精神がますます求められていくことでしょう。
集まることはできなくても、あの時を思い出し、語り合うことを諦める必要はありません。
次の世代へ命のバトンを渡すために、大いに語り、記憶をつないで行きたいと思います。


2021年の3.11 市民測定の記録