京都・市民放射能測定所 8年間の取り組みを振り返って
京都・市民放射能測定所が誕生したのは2012年5月19日です。関西初の測定所としての開設でした。まず2011年当時のことを振り返ってみますと、私にとってショックだったのは、飼育されている肉牛が「汚染稲わら」を食べたため、「汚染肉」が関西のスーパー各店に出回ったことです。私の近所にもそのスーパーがあり、よく牛肉を買っていました。私の二人の娘が小学生だったので、食べさせてしまったかと後悔した事を覚えています。他にも、給食食材が汚染されていたとか、牛乳が汚染されていたとか、たくさんの問題が報道されていました。
そして京都にも、原発事故から逃れるため多くの方が避難して来られていました。その方たちと交流し、私たちができることを支援しようと、奥森(京都測定所現代表)が中心になって交流会などを開催していました。
避難者の方からは、「せっかく避難してきたのに、汚染された食品が流通してたら、避難の意味がない」という声がありました。その時、福島では汚染食材から防護するために市民測定所がつくられたと聞きましたので、その測定所スタッフの方を京都に招いて2011年秋に講演会を行いました。その場で関西のスーパーで買った鶏肉を簡易測定してもらったら、何とその鶏肉が汚染されていたのです。衝撃的でした。
これなら「京都にも測定所をつくるべきではないか!」と奥森が発案したので私も賛同し、設立スタッフをつのって市民によびかけたところ、「ぜひつくろう」「スタッフをします」と盛り上がり、市民からの募金160万円が集まりました。そのおかげでベラルーシATOMTEX社の『ヨウ化ナトリウムシンチレーター AT1320A』を購入することができたのです。
開設した当初は週3日の測定日を設けていました。測定所スタッフは、京都に避難されてきた避難者の方たちと、開設をいっしょに担ったメンバーと、文字通り勉強をつみ重ね、測定練習を繰り返し、未経験者ばかりでしたが10数名でスタートしました。
なので京都・市民放射能測定所は、市民による市民のための測定所であり、原発事故で被害を受けた方たちの思いを受け止め、原発事故を二度と起こさないために汚染の実態を知らせ、内部被ばくによる健康被害を防ぐ。その使命感があったからこそ、8年間継続してこれたと思っています。
2011年の福島原発事故から10年が過ぎようとしている今、あの事故は「過去のもの」であるかのようにマスコミでも扱われ、課題は「復興」だけと描かれることが多くなりました。しかし、放射能は依然として残り、人体に影響を与え続けています。確かに食品から高濃度の放射性セシウムが検出されるケースは少なくなってきていますが、土壌などの環境は依然として高い汚染が続いており、油断すれば再び汚染食材が市場に流通する危険があります。
その1例として、2020年12月に測定した車のエアコンフィルターの結果を報告します。
これは福島県南相馬市で1年半走行していた車から外したエアコンフィルターですが、土壌から舞い上がった放射性セシウムを吸着したものではないかと考えます。測定開始とともに、パソコン画面の放射性セシウムを示すスペクトルがグングン立ち上がっていきました。最終的に放射性セシウム137の濃度が934ベクレル/kg、セシウム134の濃度が44.6ベクレル/kgという値が出ました。
放射能は目に見えません。しかし測定すれば、その存在が見えるようになります。今も汚染は続いているのです。
8年間を振り返ると、関東のお茶や果実からセシウムが検出されたり、関東からの避難者の方の服から放射能が検出されたりして、汚染は福島だけではないと認識したこと。滋賀で栽培された椎茸から検出され、実は東北の原木が広く流通していると知ったこと。突然死した馬の心臓を測ったら100ベクレルを超えていたこと。同じ米でも玄米と白米と米ぬかを測って比較すると、やはり蓄積される部位があること。などなどが思い出されます。
そして京都測定所では、5月は開設記念のつどい、秋は学習講演会という形で年2回放射能による健康被害の問題について市民に知ってもらう企画を続けてきました。その内容をパンフにまとめ、広げる取り組みをしてきています。
2018年に発行した第一号パンフ『原発は事故がなくても危険』は、原発や再処理工場そのものが、事故がなくてもトリチウムを大量放出して健康被害をもたらしていることを明らかにし、安全をないがしろにした原発規制基準の実態を批判しました。
2019年に発行した第二号パンフ『被ばくは低線量でも危険』は、被ばくは低線量であっても危険であることを、医学者の方の実証実験や医師の研究報告をもとに明らかにしました。
そして現在第三号パンフの発行をめざして編集中です。これには、2020年5月に開催した『開設8周年のつどい』での講演『徹底検証―福島甲状腺がんは本当に原発事故と無関係か?甲状腺検査評価部会の欺瞞を読み解く』と、2020年11月に開催した学習講演会での講演『「黒い雨」訴訟判決の内容と意義について』を収録します。そして、京都・市民放射能測定所の8年間の取り組みをふまえた報告記事を作成中です。
原発事故は10年たっても終わっておらず、放射能汚染と健康被害は続いていることを、これからも発信し続けたいと思っています。