2021年の3.11 市民測定の記録

斉藤 賢爾 (早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授)

「みんなのデータサイト」には開始当初から関わり、慶應義塾大学 SFC研究所パブリックテクノロジーデザインコンソーシアムと WIDE プロジェクトを通して、大学を跨いだクラウド上で、データサイトのウェブサーバを動かす環境を提供してきました。

東日本大震災と東電福島第一原発事故が発災した当時、私は (今でも籍がありますが) 慶應義塾大学の中で、インターネットの父の一人である村井純教授の研究室にいて、自分に何ができるかを模索し、大きくふたつの活動を始めました。ひとつは福島のこどもたちを主な対象とした「アカデミーキャンプ」です。この活動はコロナ禍の現在にあっても、東北に若いリーダーが育つのを願いながら、いったん主たる活動をオンラインに移して継続しています。もうひとつは放射線・放射能の測定とその支援です。Safecast と慶應義塾大学が共同で取り組んだ試みの中で、全国に設置したセンサーノードを、電動ドリルやレーザーカッター、そしてハンダゴテを駆使して何台も製作したことは、ソフトウェアが専門である私にとっては新鮮なものづくり体験でした。みんなのデータサイトと出会ったのもその前後だったと記憶しています。

この文章の題名の「サイヤンス」は、誤字ではなく、慶應義塾の創始者である福沢諭吉が「実学」という言葉を当てた science そのものを示しています。福沢諭吉には、幼少の頃、お札(ふだ)を粗末に扱うと本当にバチが当たるかどうか、誰も見ていないところでわざと踏みつけて、特段何も起こらないことを確認したという逸話が残っています (というか本人が自伝でそう書いています)。

サイヤンスは、権威に拠らず、観察と実験に拠って真実を見極めようとする姿勢そのものなのでしょう。ともすればアカデミアの世界では権威の座に堕ちてしまうかもしれない大学という場にいながら、私自身はサイヤンスの姿勢を保ち続けたいと思いますし、文字通りにサイヤンスを貫く市民科学の取り組みを応援し下支えする立場に居続けたいと願っています。

10年という節目を迎え、おりしも冒頭で述べた大学間クラウドは研究用の役目を終え、順次縮退していくことになり、データサイトのサーバも新たな環境に移す検討を進めています。気持ちも新たに、次の 10年 (まだセシウム137 の半減期にも到達しませんね)、そしてその先へと、サイヤンスを支えていきたいと考えています。


2021年の3.11 市民測定の記録