2021年の3.11 市民測定の記録

  3月15日、火曜日。福島第一原発サイトを巨大地震と津波が襲ってから5日め、調布市での原水爆禁止運動の仲間である久保真一さんに同行をお願いして市役所へ急いでいました。原発問題の専門家たちが多く投稿していたメールサイトでは、メルトダウンが始まっているのではないかという声が聞こえていました。すでに1号機と3号機は水素爆発によって建屋が吹き飛んでいましたが、まだ私たちは慌てることはありませんでした。チェルノブイリの経験がある私たちは、原子炉が完全に崩壊したあのケースとは違って、むき出しとなっても圧力容器が放射能の遮蔽を保っているのなら、チェルノブイリのようにはならない、そう考えていました。しかし5日めの早朝になって、外見は無傷に見える2号機が最も深刻な状況で、圧力容器を崩壊させないためにバルブを開けて蒸気を放出させることになり、事態の深刻さが1号機と3号機の爆発とは違うレベルとなったことを知りました。

 すでに登校時間を終えていたので、子どもたちは学校にいました。市役所に行って、安全を確認するまで児童生徒を外に出すな、保育園も外遊びをさせるな、というつもりでした。聞き入れられなければふたりで座り込みをしてでも訴える覚悟でした。

 まず環境部に行って訴えましたが、「計画停電」が目前に迫っていて非常事態、そういう話はトップに言ってもらわなければ我々は動けないといわれました。そこで市長室に行くことにしました。ここも戦争状態で、市長が会う時間などないといわれました。いや、会って話を聞いてもらうまではここを動かない、会わせろといって、聞き入れられなければ暴れるつもりでした。

 そこに会議室から打合せを終えたらしい市長が出てきました。どうしても話を聞いて欲しい、10分でいい、子どもたちの命を守れるのはあなたしかいないのだ、と旧知の人間が涙を流しながら訴えるのを見て、市長は「10分だけだぞ」といって秘書室長だけを連れて私たちふたりを会議室に引き込みました。状況を話し、生徒を外に出さずに校舎を密閉するべきだ、下校は状況を見て最も安全なタイミングを考えるべきだ、そんなことを力の限り話しました。安定ヨウ素剤のことが頭をよぎりましたが、そんなものが調布市にあるわけもないと考えて話題にするのを思いとどまりました。市長は話を理解してくれて、政府や東京都の情報以外に放射能が調布市に迫っているという確証がとれたら連絡して欲しい、場合によっては対処する、といってくれたのでした。

 しかし、その時にはもうプルームは調布市を含む三多摩を通過しようとしていました。そしてその後の土壌プロジェクトでわかったように、深刻なセシウムの痕跡を残したのでした。私たちはプルームの到達をキャッチできず、東京都のモニタリングが数値で示していたことも後で知りました。子どもたちの被曝を少しでも低減させてあげることができませんでした。

 名古屋に測定研修を受けに2度出向き、半年遅れで名古屋と同じ測定器を手に入れました。その時にあの日のことを思いだしていました。今度は屋上にタライを置いて水の測定を続けてI-131をキャッチして見せる。そう思ったのでした。
 
 学校給食で使われた蓮根から8ベクレルほどのセシウムが検出されたという調布市の発表、10ベクレルで線を引くという調布市給食の姿勢に対して、この8ベクレルは10ベクレル以下だから仕方ないのではなく、検出限界値の5ベクレル以下にセシウム134が理論比率で4ベクレル潜んでいるのは確実なのだから、セシウム137の8ベクレルと足すと12ベクレルだと指摘。その時はすでに給食で使用された後だったので、せめて検査機関からの「検出の連絡」は数日後の文書ではなくて、敏速にファックスでするように変更してもらえることになりました。その蓮根を実際に私たちが測定したのではなくても、地道に市民測定を続けている立場からの意見が役に立ったのでした。

 長野県にキノコ刈りに行ったという友人がいたので食べる前に測定させろといって入手したら3000ベクレル超えでした。煮付けにして食べ始めていたのを計ったら1500ベクレルでした。このことを発表したら同じ長野県だからといって心配した方からキノコの依頼がありましたが、これがセシウム137だけが30ベクレル超えで、セシウム134が出てきません。理論比率では15ベクレルはないとおかしいと先輩測定者に相談したら、核実験時代の古い放射能だという結論になり、それを依頼者に伝えました。この測定にまつわるやりとりが、「放射線を浴びたX年後」という南海放送制作の映画3作めの取材につながりました。

 1990年から2001年まで、調布市で高木仁三郎さんといっしょに過ごして、たくさんのことを教えていただきました。しかし放射能の測定方法を教えてもらったわけではありません。素人ばかりで手探りで始めた市民の放射能測定です。放射能がしつこいのですから、私たちもしつこく測定を続けていかなくてはなりません。調布市内のドングリなどからは今でも微量ですがセシウムを検出しています。これからも市民に注意喚起を続けていきます。


2021年の3.11 市民測定の記録